戦国異伝
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第三十九話 なおざりな軍議その七
彼はだ。こう小姓達に話すのだった。
「こうして飲んでみるとじゃ」
「何かわかりましたか?」
「それで」
「目が冴える」
そうなるというのだ。
「これでは眠れぬな」
「それではよくないのでは?」
「そうです」
小姓達は信行の今の話を聞いてだ。それぞれ言った。
「殿は休めと言われたのです」
「それで眠れぬとは」
「それでは本末転倒では?」
「だからわからぬのだ」
また言う彼だった。
「兄上は何を考えておられるのか」
「ことは一刻を争いますが」
「それでこの行い」
「これは一体」
「わからぬことだらけだのう」
信行の言葉もだ。自然と歯切れが悪くなっていた。
「特に今は」
「しかしそれでもです」
「我等はここを離れるつもりはありません」
「何があろうとも」
「正直何を考えておられるかわからん」
信行はまたこのことを話す。しかしだった。
彼は同時にだ。こんなことも話すのだった。
「しかし兄上ならばだ」
「はい、殿ならば」
「必ずや」
「今川を倒してくれる。絶対にな」
信長への信頼はだ。揺るがないものだった。
それがあるからだ。信行は落ち着いてこう言うのであった。
「さて、この戦が終わればだ」
「かなり落ち着きますな」
「それで」
「いやいや、何を言う」
そこで気を抜こうとする小姓達にだ。釘を刺す形になった。
「そうはならんぞ」
「なりませんか」
「そうは」
「むしろ忙しくなろう」
そうなるというのだ。信行は笑ってはいるが調子は真剣なものだった。
「それからな」
「忙しくなりますか」
「そうなるのですか」
「戦だけではないのだ」
彼等がしなければならないことはだ。それだけではないというのだ。このことは信長を弟として補佐しているからこそだ。実によくわかることだった。
そのことだ。小姓達に話すのである。
「政もあるではないか」
「確かに。それもですね」
「あります」
「むしろその方が忙しいでしょうか」
「政の方が」
「そういうことよ。政があるのだ」
信行はまだ茶を飲みながら話していく。自分で淹れて小姓達にも勧めながらだ。そのうえで緑のその茶を飲みながらなのである。
「そして策もな」
「策も」
「それもでございますか」
「やらねばならんことは幾らでもある」
この現実が語られた。
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