戦国異伝
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第三十九話 なおざりな軍議その五
やがて程なくして茶が来てだった。そうしてだった。
その茶を信長だけでなく家臣達も全て飲む。茶を飲むとだ。
自然と心が落ち着く。そして今は家臣達の全てが気付いていないが目が冴える。心が落ち着くだけではなかったのである。
そうして一杯飲み終えるとであった。それまで昂ぶっていた気がかなり落ち着いてしまっていた。信長も茶を一杯飲み終えていた。それからだ。
彼はだ。その落ち着いた顔で彼等に告げた。
「ではじゃ」
「はい、それではです」
「どうされますか」
「終わりじゃ」
こう言うのであった。
「今宵はこれで終わりじゃ」
「終わり!?」
「また仰いますが」
「それは一体です」
「どういう意味でござろうか」
またきょとんとした顔になってだ。問う彼等だった。
「ですから。どちらに」
「どちらにされますか」
「だから終わりじゃ」
信長はあくまでこう言うのである。
「終わりなのじゃ」
「ですから何が終わりなのでしょうか」
林がだ。彼に問うた。
「今は何が終わりなのでしょうか」
「皆休め」
信長は今度は具体的に述べた。
「よいな、そうせよ」
「お戯れを」
林はだ。今の主の言葉には笑ってこう返した。
「今ここでそれはありますまい」
「わしは本気じゃ」
「ではまことに」
「そうじゃ。休め」
信長の言葉は変わらない。
「よいな」
「あの、だからです」
林も言う。今度は本気であった。
「今はそうした状況ではありませんぞ」
「今川のことか」
「そうです。どうされるのですか」
そのことを言い続けるのだった。主に対してだ。
「このままではです」
「だから言っておるではないか」
「夜がですか」
「そうじゃ。遅いではないか」
あくまでだ。このことを言う信長であった。
「もうな」
「しかしです」
「何じゃ?まだ軍議をしたいのか」
「無論です。今はです」
林は食い下がる。彼とて退けなかった。
それでだ。主に対してさらに言った。
「それでどちらにされますか」
「それを今決めよというのじゃな」
「はい、どちらに」
「だから言うぞ」
また言う信長だった。結局こう言う彼だった。
「休め、よいな」
「あの、ですから」
「よいよい。皆休め」
もうそれ以上は言わせなかった。こうしてだった。
信長は去ってしまった。後に残ったのは呆然となる家臣達だった。その中で信長に問うた林はだ。唖然とするしかない様子だった。
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