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戦国異伝

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第三十九話 なおざりな軍議その四


 信長はだ。その彼等に述べるのだった。
「夜遅い」
「えっ!?」
「夜遅いと」
「そう仰るのですか」
「そう」
「そうじゃ。もう真夜中ではないか」
 実際に眠そうな顔を見せてだ。信長は話すのである。
「それで何じゃ。軍議か」
「ですから。今川がもう鷲津に来ております」
「そして砦を取り囲みですぞ」
「実際に攻めてきております」
「その数二万五千」
 今川の数はだ。ここでも話される。
「天下でここまで数を出す家はそうはおりません」
「百万石の兵をあるだけ出してきました」
「それに対して我等は全て集めて一万五千」
 鷲津や丸根の兵、そして平手が美濃との境に持って来ている兵全てを合わせてだ。それだけなのだ。だがそれに対してだというのだ。
「兵の数はこちらが少ないのです」
「それに対してどうするか」
「確かに数は少ないです」
 それでもだった。彼等は諦めてはいなかった。何故ならだ。
「ですが我等の鎧も陣笠も立派なものです」
「槍も長いですし馬も弓矢も見事です」
「しかも鉄砲もあります」
「十分以上に戦えます」
 こう読んでいるからこそだ。彼等は諦めていなかった。
 そのうえでだ。主に問うているのだ。こうした様にだ。
「ですから今こそです」
「どうするべきか決めましょうぞ」
「鷲津まで向かいますか、それとも」
「この清洲で」
「だから夜遅いのう」
 また言う信長だった。
「そうではないか?」
「あの、ですから殿」
「今はです」
「今川が来ております」
「そうした状況でございますが」
 まだそんなことを言うと見てだ。彼等は少しきょとんとした口調で話すのだった。
「このまま何もしないのでは話になりませぬ」
「要はどうするかです」
「ですから攻めるのでございますか」
「それともこの清洲に」
「茶をもて」
 信長の次の言葉はこれだった。左右の小姓達に言ったのである。
「茶をじゃ。よいな」
「むっ、では茶を飲まれたうえで」
「いよいよですな」
「どうされるか仰って頂けますか」
「今から」
「茶はよい」
 信長はこの場ではじめて笑った。そうしての言葉だった。
 笑いながらだ。こう話すのである。
「美味いし心が落ち着くわ」
「ですな。ではその茶を飲まれて」
「それからいよいよどうされるか」
「お決めになられますな」
「いよいよ」
「とにかく茶を飲むぞ」
 家臣達にもだ。こう告げるのだった。
「よいな、そうせよ」
「はっ、それでは」
「そうさせてもらいます」
 家臣達も納得した顔で頷いた。誰もそのことには異を唱えない。信長が必ず何かを決めると見ているからだ。その前の休止と思ったのだ。 
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