戦国異伝
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第三十八話 砦の攻防その九
そのうえでだ。こう彼等に問うた。
「そなた等のことだが」
「はい、何でしょうか」
「一体」
「やはりあれじゃな」
彼等を見ながら話す柴田だった。
「もう仇名はもらったか」
「はい、それがしですが」
最初に答えたのは浅井である。
「新八郎です」
「与十です」
真木だ。
「門尉でございます」
梶川である。
「彦右になりました」
幸田だ。
「平吉郎に」
岡本が述べる。
「平左です」
最後にだ。生駒である。
「それがし達それぞれ」
「殿にこう呼ばれております」
「そうじゃったな。殿は名前で呼ばれることはない」
信長の特徴の一つだった。柴田自身がそう呼ばれているからわかるのだ。
「幼名で呼ばれるからな」
「それは何故でしょうか」
「他の大名もそうですが」
「殿はそれが特に多いですが」
「名前で呼ぶと妙に堅苦しいから好まれぬそうじゃ」
それでだというのだ。
「例えば平吉郎に彦右よ」
「はい」
「それがし達でございますか」
岡本と幸田がそれぞれ応える。
「その方等前からよく伊勢に行っておるな」
「権六殿と同じく」
「あの役目で」
「そうじゃな。殿に行きと帰りに報告する時じゃ」
まさにだ。その時にだというのだ。
「その幼名で呼ばれるじゃろ」
「その通りでございます」
「それは」
「殿はまず名前で呼ばれぬ」
これはだ。ほぼ絶対に言えることだった。
「そこが殿の癖じゃ」
「では名前で呼ばれることは」
「ありませぬな」
「うむ、ない」
彼が幼い頃より仕えている柴田にしてもだ。聞いたことがなく記憶にないことだった。
「まことに記憶にない」
「ううむ、殿のご気性でしょうか」
「それも」
「おそらくはそうじゃな。それが変わったらまず怖いのう」
こんなことも言う柴田だった。
「殿らしくないからのう」
「言い換えれば殿が我等の名を呼ばれると」
「危うい状況だというのですね」
「左様でございますか」
「想像できんからな」
だからだ。余計にだという柴田だった。
「それを考えていくとじゃ。今もじゃ」
「安心してよいですか」
「今川が攻めて来ているその状況も」
「実際にじゃ」
柴田は彼等の中からだ。岡本と幸田を見てだ。こう言うのであった。
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