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戦国異伝

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第三十八話 砦の攻防その二


 彼等は今川、つまり元康の軍を待つ。するとだ。
 すぐに四方八方を取り囲んでだ。そのうえで。
 次々に火矢を放ってきた。瞬く間に何本も砦の中に入る。
 だがそれに対してだ。織田方は。
 すぐに布、水で濡らしたそれを火矢の上に被せてだ。消していくのだった。
「すぐにどけるでないぞ!」
 木下はそうして火を消す足軽達に言って回る。
「完全に消えてからじゃ!」
「煙までですか」
「それが消えてから」
「そうじゃ、火を侮るな」
 火は消えたと思ってもすぐにまた気が出る。それがわかっていてのことだった。
「よいな、決して焦ることはない」
「焦らずともですか」
「よいのですか」
「そうじゃ。水はたっぷりとある」
 鷲津には井戸がある。しかも木下はこの時に備えて水を多く用意していたのだ。しかもこの季節はどうかというとだ。
「今は湿っておるからのう」
「だから火はですか」
「それ程強くはならないと」
「そうじゃ。雨が多い季節だからのう」
 それでだというのだ。
「ここにもじきに雨が降るぞ」
「では火はそれ程恐れなくてよい」
「左様ですか」
「そうじゃ、まずは焦るな」
 木下が注意するのはだ、むしろそちらだった。
 そのことを足軽達に強く命じつつだ。さらにだった。
「消した火矢は逆に打ち返せ」
「敵の矢をですな」
「そうせよと」
「そうじゃ。敵のものは敵に返してやるのじゃ」
 笑いながら足軽達に言って回る。彼は言う時に立ち止まってはいない。砦の中を駆け回ってだ。そのうえで指示を出して回っているのだ。
「よいな、そうせよ」
「はい、それでは」
「その様に」
「うむ、まずは敵の火を防ぐのじゃ」
 こうしてだ。火矢に対してはだ。かなり的確に防いでみせたのだった。
 どれだけ火矢を打ち込まれてもだ。砦はだ。
 一行に燃える気配はなかった。それを見てだ。 
 元康はだ。指示を変えた。こう左右の己の旗本達に命じた。
「次はじゃ」
「火矢は止めてですか」
「そのうえで、ですな」
「そうじゃ。矢は放ち続ける」
 それはだと言ってであった。
「このままじゃ」
「そして砦の壁を登りますか」
「いよいよ」
「うむ、見たところ」
 砦を見る。するとだ。
「壁は高いな」
「しかも壕は深く広いです」
「砦にしては」
「よくもあそこまでしたものじゃ」
 元康にしても感心する程だった。砦の壁は高い。しかもだ。
 壕があるがそれもだ。実に深くしかも広かった。ちょっとした城程のものがある。
 そういったものを見てだ。彼は言うのであった。
「これは容易には陥とせぬな」
「そうじゃのう」
 ここでだ。この場ではじめて雪斎が声を出したのだった。
 彼もまた元康と共に砦を見ながらだ。こう言うのだった。
「思った以上に堅い守りじゃ」
「左様ですな。ですが」
「何としても陥とすか」
「それが務めですので」
 だからだと答える元康だった。
「そうさせてもらいます」
「よくぞ言うた」
 雪斎は元康の今の言葉にだ。感心するように頷いた。 
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