戦国異伝
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第三十六話 話を聞きその六
「しかし。本当にそうでしょうか」
「この言葉は月並みじゃが」
佐久間盛重はここでこう前置きしてまた述べた。
「あれじゃ。男は顔ではない」
「それがし背も低いですが」
「背でもない」
それも否定するのだった。
「もっと言えば腕っぷしでもない」
「それでもありませんか」
「そうじゃ。どれでもない」
こう言ってだ。そこから本題に入った。
「人を惹きつけるものじゃ」
「それでございますか」
「殿を見よ。何かこう共に邁進したくなるであろう」
話すのは信長のことだった。彼のことを言えばだ。
木下も少し頷くものを見た。そうしてこの様に述べた。
「そうですなあ。殿を見ていれば」
「そうじゃろう。共にいたくなるな」
「そして支えたくもなります」
「それじゃ。大事なのはそれじゃ」
あくまで木下にこのことを話す。
「猿、御主にはそれがあるのじゃ」
「人をですか」
「うむ。現にわしは御主が嫌いではない」
それも言うのだった。
「その話を聞きたくもなる」
「だといいのですが」
「とにかくじゃ。御主には人を惹きつけるものがある」
それは確かだというのだ。
「安心せよ。御主には必ずよい女房がつくに決まっておったのじゃ」
「ねねがでございますか」
「そうじゃ。しかし女房は大事にせよ」
それは絶対だというのだ。女房を大事ということはだ。
「よいな。粗末にすれば罰が当たるぞ」
「罰がでございますか」
「罰が当たってはどうにもならぬ」
そのこともだ。強く言うのである。
「女房を大事にせん男は所詮器が知れておるわ」
「母親もでございましょうか」
「そうじゃ。おなごは神様じゃ」
これは日本において古来から言われていることである。彼はそのことをそのまま木下に話したのである。
「粗末にするととんでもないしっぺ返しが来るぞ」
「言われてみれば」
そう言われるとなのだった。木下にしても思い当たるふしがあった。彼のその思い当たるふしはというとだ。
「母上は優しいでございますが」
「怒るとおっかないですな」
木下秀長も兄に続く。
「それを考えますと」
「おなごは怖いものでございますな」
「そういうことだ。おなごは敵に回すな」
佐久間盛重は強く言う。
「決してじゃ」
「ううむ、ではおなごというものは」
蜂須賀もここで話す。彼も話をじかと聞いているのである。
「まさに山の神でありますな」
「そうじゃ。山の神は怒ると怖い」
佐久間盛重はその蜂須賀に対しても話す。
「それをわかっておくことじゃ」
「よくわかりました」
頷く蜂須賀だった。そうした話をしてである。
彼等は今は備えを続けていた。そしてそれはかなりのものになっていた。
それを聞いてだ。雪斎は険しい顔になって述べるのだった。
「ううむ、二つの砦でそうなのか」
「その様です」
元康がその雪斎に述べた。二人は今も軍の先頭を進んでいる。そのうえで馬上において話をしているのだ。
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