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戦国異伝

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第三十六話 話を聞きその五


「何としても生き残りましょう」
「猿達の案で砦をここまで固めた」 
 そのことにはだ。蜂須賀は素直に喜びの言葉を述べた。
「そして小六もおるのう」
「それがしは忍ですので」
「外で暴れてもらうと有り難いのう」
 こうした状況での忍の使い方はわかっていた。それもよくだ。
「頼んだぞ」
「お任せあれ」
「今川にはこれといって強い忍がおらぬ」
 これは今川の急所の一つだ。しかし義元はそのことを自覚していない。
「しかしこちらには小六がおる。心強いな」
「目一杯暴れてよいですな」
「むしろ暴れてくれ」
 そうしてくれというのだ。
「よいな」
「それでは」
「一週間、生き残るぞ」
 それをだ。佐久間盛重は三人に話したのだ。
「よいな。殿がその何かをされるまでな」
「ですな。話が決まったところで」
 木下が笑いながら言ってきた。
「飯にしますか」
「もうそんな時間か」
「左様です。すぐに食いましょう」
「そうだな。それではな」
 こうしてだ。彼等は昼食に入った。飯を炊いてそれを干し魚と共に食う。その中でだ。
 木下がだ。こんなことを言うのであった。
「それがし実はです」
「うむ、どうしたのじゃ?」
 蜂須賀が木下に問う。四人で櫓の中で車座になって座って食べているのだ。
「米が好きとかか?」
「握り飯が好きでござって」
 こう言うのである。握り飯が好きだとだ。
 そしてさらにだ。こんなことも話した。
「他には臼で潰したひき米も好きでございます」
「それもか」
「あれはいいものでございますな」
 笑ってだ。それがいいというのだ。
「この戦が終われば女房と二人で楽しく食うとします」
「おお、そういえば御主妻を迎えたのじゃったな」
「はい」
 佐久間盛重の問いにも笑顔で頷く。
「左様でございます」
「うむ。それでなのじゃがな」
「それで?」
「女房殿は大事にするようにな」
 佐久間盛重がここで言うのはこのことだった。
「くれぐれもじゃ。大事に奉るのじゃ」
「左様ですな。いや、それがし実は」 
 自分はどうなのかとだ。木下は握り飯を口の中に入れながら話す。口の周りに米が二粒三粒と付くがそれは取って口の中に入れる。
「この顔で。しかも背が小さいですから」
「女房は得られぬと思っておったのか」
「正直危ういと思っていました」
 こう素直に話すのだった。
「しかしそれでもこうして」
「女房を迎えられたのじゃな」
「よくそれがしの様な者が迎えられました」
「いや、それは容易じゃろう」
 佐久間盛重は己の幸せを心から喜ぶ木下にこう話した。
「御主だとな」
「秀長もそう言っていますが」
 木下はこう言いながら己の弟を見た。無論彼も握り飯を食べている。 
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