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戦国異伝

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第三十五話 奇妙な砦その三


「そうなれば駿河は何だ」
「空き家でございます」
 それに他ならないとだ。猿飛も答える。
「まさにです。それでございます」
「空き家ならばどうだ」
「中に入っても問題はありませぬ」
「そういうことだ。御館様はその時に備えてだ」
 どうかとだ。幸村はさらに話す。
「わしを呼んで下されたのだ」
「空き家となった駿河に攻め込む為ですか」
「最早駿河に兵はおらぬ」
 それはもう既にだというのだ。今川の兵はだ。確かに出払っていた。
「しかし国人共がおるからな」
「その者達との戦を考え」
「して殿をですか」
 三好兄弟だった。
「甲斐に呼ばれた」
「御館様はそうされたのですか」
「そうだ。おそらくわしはだ」
 幸村はどうなるか。彼自身が話した。
「先陣の栄誉を頂く」
「先陣。それはいいですな」
 海野がだ。先陣と聞いて嬉しそうな声を出した。
「では我等もまた」
「うむ、頼むぞ」
 幸村はその十勇士達に対して述べた。
「そなた達が頼りだ」
「しかし殿もですな」
 筧の言葉である。
「自ら槍を取られ」
「そうする。わしは戦の中で生きる男だ」
 その手に今は槍はない。しかし確かな輝きがそこにある。
「自ら戦いだ」
「だからこそです」
 望月である。
「我等も戦の場に向かうのです」
「わしが自ら戦うからか」
「その殿が好きだからです」
 穴山の言葉だ。彼の顔は微笑んでいる。
「自ら果敢に戦われる殿がです」
「だからだというのか」
「そうでなければ」
 由利も言う。
「誰が従いましょう」
「我等はこれまでそれぞれ各国を放浪してきました」 
 根津はそのことから話す。
「ですから。人を見る目はあるつもりです」
「殿は間違いなくです」
「天下一の方になられます」
「わしは天下なぞ望んではおらんぞ」
 野心は全くない。それが幸村だ。彼は信玄に対して絶対の忠誠を持っておりそれに基づいて日々鍛錬を欠かさない。それが彼なのだ。
「それは御館様が目指されるものではないか」
「いえ、そういう意味ではありませぬ」
「違う意味です」
 こう返す十勇士だった。
「この場合はです」
「天下の男の中で、です」
「殿が最も素晴らしい方となられるということです」
「わしがか」
 幸村がこう問うとであった。十勇士達もであった。
 確かな言葉でだ。彼に述べた。
「はい、左様です」
「殿ならばです」
「必ずなれます」
「どの者よりも素晴らしい方にです」
「なられます」
「ふむ。そうかのう」
 そう言われてもだ。幸村は怪訝な顔になる。 
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