戦国異伝

「よいな。見届けるのだ」
「それがしがですか」
「信長を支えよ」
　今度は命じた。
「そしてあ奴を見届けるのだ」
「この命がある限りですか」
「そうだ、ある限りだ」
　まさにそうだというのだ。
「信行もおる。あ奴はどうも野心がない故な」
「はい、信行様は確かに」
　勘十郎のことだ。彼も元服しているのだ。
「殿の跡を継がれようという野心やそういったものは」
「ないな。信長に仕えることでよいと思うておる」
「それは弟様方皆そうですな」
「幸いなことにな。信長には優れた弟も多くおる」
　この時代一族の者もまた武将となり政に携わった。その代表が武田氏であり彼は弟達の補佐を受けてもいたのである。これは全ての家がそうだ。
「そなた達だけでなくな」
「さすれば信長様は」
「必ずや大きく羽ばたく」
　また笑顔で言う信秀だった。
「そしてその為にもだ」
「美濃との御婚因を」
「しようぞ。その話進めておけ」
「はっ」
　こんな話が為されていた。そうして程なくして竹千代は信長の弟信広との交換で今川の下に行くことになった。信長とは別れである。
　尾張と三河の国境でだ。竹千代は泣きそうな顔になっていた。しかしその彼に対して見送りに来ていた信長はこう告げるのだった。
「泣くな」
「しかしこれで信長殿とは」
「また会う」
　こう竹千代に告げた。
「まただ」
「御会いできるでしょうか」
「わしは尾張を一つにする」
　まずは自分のことから述べた。
「そして御前はだ。三河だ」
「三河ですか」
「三河は御前のものではないのか」
　ここでだ。竹千代に叱責めいた口調を送った。
「そうではないのか」
「それは」
「いいか、御前はわしの弟だ」
　前に彼に言ったことをここでも言った。
「その御前はだ。三河を取れ」
「そこまで言われますか、私に」
「そして三河だけではない」
　そこだけではないと。信長の言うことは今の竹千代にはかなり大きなものだった。しかしそれでも彼はあえて言うのであった。
「遠江も駿河もだ」
「駿河まで」
「手に入れるのだ」
　これが信長が今の竹千代に告げることだった。
「御前には三国を任せる」
「その三国を」
「わしは西に出る。まずは尾張を一つにしてだ」
　そのこともだ。彼にとっては一歩に過ぎなかった。
　そしてだ。さらに言うのだった。
「美濃、そして京だ」
「都まで、ですか」
「全てを手に入れるるつもりだ。わしはその御前の弟だ」
「ならばその私はですか」
「三国を手に入れわしと共に天下を歩め」
「その天下を」
「わしには多くの家臣がいる」
　今集ってきている者達だ。それに他ならない。
「それに多くの弟達もいるがだ」
「信行殿達ですね」
「もう一人、いや二人か」
　信長は考える顔になっていた。
「二人欲しいのだ」
「二人といいますと」
「まずは御前だ」
　最初は彼だった。