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戦国異伝

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第三十四話 今川出陣その六


「少なくとも地の理はこちらにある」
「織田に」
「そうじゃ。ある」
 また言う信長だった。
「さて、今川もそろそろじゃな」
「出陣ですね」
「出て来るぞ、そろそろな」
 楽しそうにだ。こう話すのだった。
「駿河からのう」
「そして一路この尾張に迫る」
「してじゃ」
 話がだ。また変わった。
「権六達はどうしておる」
「篭城の備えをしておられます」
 それをしているというのである。
「権六殿だけでなく他の者達もです」
「御主もじゃな」
「はい」
 滝川は他ならぬ自分自身もだ。そうしていうというのだった。
 そのうえでだ。彼は主に対してこう述べた。
「やはり。この度はです」
「篭城しそのうえで」
「美濃との境におられる平手殿が率いられる主力を呼び寄せ」
「そのうえで清洲を取り囲む今川を打つ」
「そうされるのですね」
「さてな」
 しかしであった。信長はだ。
 悪戯を思わせる笑みでだ。こう言うのであった。
「どうしたものかな」
「といいますと」
「二郎、そなたもそう思うのじゃな」
「?」
 滝川は信長の今の言葉に怪訝な顔になった。そしてだ。
 主にだ。こう問い返すのだった。
「他にはないのでは?」
「この清洲に篭城しそして爺の軍勢と共に打つしかじゃな」
「それしかありません」
 また言う滝川だった。
「今川に勝つには」
「ではそう思っていることじゃ」
 ここでも答えない信長だった。
「是非な」
「ううむ、一体何を御考えなのか」
「ではこれからじゃ」
「これから?」
「馬に乗る」
 あっけらかんとしてだ。それをするというのだ。
「これからな。だから話はこれで終わりじゃ」
「左様ですか」
「御苦労だった。下がっていいぞ」
 こう滝川に告げたのだった。
「それではな」
「わかりました。それでは」
「そうか。誰もがそう思っておるか」
 信長はふとだ。満足そうに呟いた。
「よい、これでな」
「?殿は何を考えておられるのか」
 滝川もわかりかねていた。そして信長はそのことをよしとしていた。
 彼がそうしている間にだ。遂にであった。
 駿府城に大軍が集っていた。その数たるや。
「二万五千です」
 まだ法衣のままの雪斎がだ。既に鎧と陣羽織を着ている義元に対して述べていた。
「今ここにです」
「今川の全軍が集っておるな」
「後は殿のお言葉があるだけです」
 こう主に告げるのだった。
「では。どうされますか」
「決まっておる」
 微笑んでだった。義元は言った。その頭にはまだ兜はない。烏帽子がある。それでその公家そのものの髷を覆っているのである。 
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