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戦国異伝

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第三十四話 今川出陣その四


「武田殿には既に見事な忍の者達がいます」
「真田十勇士」
「あの者達は一人一人がまさに天下屈指の忍達ですが」
「あの者達と競り合われると」
「違うな」
 そうではないというのである。武田ではないとだ。
「武田殿には行かん」
「では一体」
「どうされますか?」
「三河に行かれるとしても」
「どの家に仕えるというのですか」
「暫くすればわかる」
 時が経てばだというのである。
「織田殿と今川殿の戦が終わればだ」
「そうすればですか」
「わかると」
「左様ですか」
「そうだ、今はだ」
 男の言葉は繰り返しだ。それをあえてしてもいた。
「見ることだ」
「織田殿が勝たれるのをですね」
「そしてそれから」
「わかると」
「わかれば今は動かぬ」
 それだけが間違いないというのである。
「わかったな」
「では今はまだこの伊賀に留まり」
「見るのですか」
 そう話してだった。そのうえでだった。
 男はだ。あらためてだった。 
 声達にだ。こう問うたのであった。
「では皆の者よ」
「はい」
「何でしょうか」
「わしについてくるな」
 今問うのはだ。このことだった。
「この服部半蔵にだ。ついてくるな」
「はい、そうします」
「そうさせてもらいます」
 声達はだ。誰もがこう答えるのだった。
「我等は半蔵様の臣です」
「だからこそ」
「今伊賀もおかしなことになっておるからな」
 その男服部半蔵のその引き締まった顔が曇った。そのうえでの言葉だった。
「百地殿だがな」
「そうですな。どうも近頃」
「動きが怪しいです」
「一体何を考えておられるのか」
「それがわかりませぬ」
「元より腹の底が見えぬお人だった」
 それはだ。元からだというのである。
 しかしだ。ここでだった。服部はこうも言うのだった。
「だが近頃はな」
「怪しい動きが多過ぎます」
「何処の大名についているのでしょうか」
「何処かの家についているようですが」
「一体それはどの家か」
「気になりますが」
「果たして家なのか」
 服部はそのこと自体に疑問を呈したのだった。
「家ではなく。寺社ではないのか」
「では本願寺でしょうか」
「あの寺についているのでしょうか」
「わからん。しかしだ」
 即断を避けている。それが今の服部の言葉だった。
「わしは今の百地殿には只ならぬものを感じる」
「それは妖でしょうか」
 声の一人が服部の今の言葉に問うた。 
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