戦国異伝
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第三十三話 桶狭間の前にその三
実際にだ。信長は彼に一万二千の兵を与え美濃との境に向かわせた。
そして一千の兵を佐久間盛重に預けそこに木下達を加えてだ。そのうえで彼等は三河との境に向かわせた。その動きを見てだ。
家臣達の多くはだ。こう言うのだった。
「ふむ、そう来るか」
「平手殿に兵を預けそのうえで」
「敵が清洲に来た時に」
「一気に」
誰もがだ。そう考えるのだった。
そしてだ。三河についてはこう思うのだった。
「敵を引きつけそのうえで」
「適度などころで退く」
「そういう御考えじゃな」
「殿らしいと言えるか」
信長らしい。そうした言葉も出る。
「相変わらず。変わったやり方を好まれる」
「しかしこのやり方だとな」
「今川に勝てるな」
「そうじゃな」
正面から戦うよりもだ。手堅い作戦だと思われたのだった。そしてだ。
ここでだ。こうした言葉も出た。
「正面から戦っても勝てるやもな」
「まあこちらは一万五千」
その彼等の兵の数が述べられる。
「対する今川は二万五千」
「兵はあちらが一万も多い」
「しかしじゃ」
それでもだというのである。
「今川の兵はかなり弱いからのう」
「織田の兵は弱いにしてもじゃ」
「こっちには鉄砲もあれば」
「長柄槍もある」
武器ではだ。負けていないというのだ。
「弓も鎧も手入れしてある」
「勝てるな」
「そうじゃな」
こう話されていく。
「敵の将もじゃ。充分以上に戦える者は少ない」
「三河の者と」
元康が率いる彼等とだ。他にはだというのだ。
「それとあの和上じゃな」
「太源雪斎」
「まあ他には朝比奈とかがいるがじゃ」
「大したものはそれ位」
「どうということはないな」
将の質についてはだ。今川は武田や北条と比べると無能ではないにしても小粒だと思われていた。実質雪斎が柱であるのだ。
「侮るつもりはないが」
「三河者とあの和上は恐ろしいが」
「後は特に」
「さすれば正面とぶつかっても」
「勝てるな」
「そうやもな」
ところがだ。ここでだ。
戦には秀でていないとされる信行がだ。こう言うのであった。
「しかし正面からぶつかっては勝てたとしてもじゃ」
「その場合はですか」
「まずいのですか」
「かなりの損害が出るぞ」
こう話すのである。
「織田にしてもかなりの兵を失うぞ」
「確かに。言われてみれば」
「正面からぶつかれば流石に」
「こちらも尋常ではいきませぬ」
「その通りですな」
誰もが信行の言葉に頷く。まさにその通りなのだ。
「では殿の今回のお考えは」
「正しいですな」
「正面からの戦いを避け」
そうしてだ。篭城しそれからだというのだ。
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