戦国異伝
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第三十三話 桶狭間の前にその二
「それでもじゃ。やってくれるであろうな」
「ではその千の兵で足止めされますか」
平手は今度は用兵全体について話をはじめた。
「そして。残りの全軍で援軍に向かいそのうえで今川を」
「爺、そなたはじゃ」
信長は平手の今の言葉に答えなかった。そのかわりにだ。
彼に対してだ。こう告げるのだった。
「一万二千の兵を率いじゃ」
「一万二千でございますか」
「美濃との境に向かえ」
こう告げるのである。それを聞いた平手はだ。
怪訝な顔になってだ。すぐに主に対して問い返した。
「殿、今何と」
「聞こえなかったか?よもやそこまで歳ではあるまい」
「聞こえてるからこそ問い返すのでございます」98
こう返すのがやはり平手である。彼は主に対して咎める顔で話すのだった。
「ここで美濃でございますか」
「左様じゃ。美濃との境じゃ」
「まさかそのまま美濃に攻めよと」
「そうすると思うか?わしが」
「若しそう仰るなら」
どうするか。平手は本気で話す。
「今ここで殿に厳言を申し上げているところでございます」
「安心せい、幾ら何でもそれはないわ」
信長もだ。それは笑って否定した。
「今は今川じゃ。斉藤はその後じゃ」
「さすれば何故」
「普通にやっては多くの兵を失う」
ここでこう言う信長だった。
「そうじゃな」
「しかし元々こちらの方がです」
「兵が少ないというのじゃな」
「それで何故また」
しかしだ。言っているうちにだ。
平手は頭の中で考えてだ。こう述べたのだった。
「まさか。清洲に篭城し囲まれたところに兵を戻し」
「そう思うか」
「それしかありませぬ故」
兵法の常識で考えてだ。こう述べたのである。
「考えられるのは」
「ははは、確かにのう」
「むっ、これは」
平手は信長の今の笑いでだ。あることを察した。
そのうえでだ。やれやれといった顔になってだ。主に言うのであった。
「またですか」
「まただと思うか」
「全く。変わったことばかり考えられるのですから」
「普通にやってまずい場合は変わったことをすることじゃ」
信長は笑ったまま平手に返す。
「だからじゃ。今度もじゃ」
「そうされますか」
「左様じゃ。今川を出し抜く」
このことはだ。真面目な顔で話すのだった。
「そうして勝つぞ」
「そうされますか」
「さて、これから暫く忙しいぞ」
信長はこうも話した。
「何かとじゃ。わかるな」
「それは既に」
「爺にも色々とやってもらう」
「さすれば。まずは兵を美濃との境に送り」
「それが最初の一手じゃ」
最初だというのだ。そしてである。
さらにだとだ。信長はその言葉を続けていく。
「それからもどんどん手を打っていくぞ」
「相手を詰ませるのですな」
「ただし。詰みまでは気付かせぬ」
「王手を隠したうえで」
「詰みまでもっていく。よいな」
「そして織田の勝ちを」
「手に入れるぞ」
平手とだ。こうした話をした。そうしてだ。
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