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戦国異伝

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第三十三話 桶狭間の前にその一


               第三十三話  桶狭間の前に
 信長のところにである。平手が来て言う。
「駿河のことでございますが」
「うむ、何じゃ」
 信長はまずは鷹揚に返した。そのうえで問うのである。
「動きがあったか」
「兵を集めておるようでございます」
 平手はだ。こう主に話すのだった。
「そろそろかと」
「そうか、来るか」
「それでどうされますか」
 ここからだった。本題である。
「尾張と三河の境に兵を集められますか」
「その場で決戦というのじゃな」
「はい、そうされますか」
 問いながら主の顔を見る。とりわけその目をだ。
 御互いに強い光をその目から放っている。そのうえでの言葉だった。
「そうして戦われますか」
「いや、それはせぬ」
「されぬと」
「そうだ、せぬ」
 また言う信長だった。
「ただ。境の砦にはだ」
「兵を入れられますか」
「大学を向かわせよ」
 佐久間盛重をだ。彼を向かわせるというのである。
「あの者と。そして」
「他には」
「猿を向かわせよ」
 佐久間盛重以外にだ。木下をというのだ。
「その弟もな」
「あの兄弟は」
「あそこに行かせるべきではないというのだな」
「はい」
 その通りだとだ。平手は主に対して答えた。
「おそらく。境は凄まじい戦になります」
「そうであろうな」
「その様な場所にあの猿は」
 こう言ってだ。木下自体のことも話すのだった。
「槍も刀も下手です。弓なぞとても使えません」
「向いておらんな。激しい戦には」
「そう思います」
 その通りだというのである。54
「とても」
「その通りじゃ」
 そしてだ。信長もである。
 それをわかっているとしてだ。平然と答えるのだった。
「あの猿には武芸は無理じゃ」
「それでは何故」
「大学は確かに強い」
 佐久間盛重のだ。その軍略も認めはする。
 だが、であった。それに留まらないのだった。
「しかし。今度の戦は幾ら強くともじゃ」
「駄目でございますか」
「今川で最も強い者達と戦わねばならん」
「太源雪斎と」
「竹千代じゃ」
 この二人だというのだ。
「しかも寡兵でじゃ。大学だけでは死んでしまうわ」
「大学を失うつもりはありませぬか」
「ない」 
 断言だった。全くないというのだ。
「捨石になぞするものか。大学であろうと誰であろうとじゃ」
「では大学なら止められるからこそでございますか」
「大学と。猿ならばじゃ」
 木下のことをだ。ここでまた言うのであった。
「あの猿もおればじゃ。大学は死なずに済む」
「猿がおれば」
「その弟と。そうじゃな」
 ここでもう一人の名前が出た。その者の名は。
「小六じゃ。あれも行かせようぞ」
「あの者もでございますか」
「そうじゃ。兵は千程しかつけられぬが」
 それでもだというのである。信長は真剣に話す。 
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