戦国異伝
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第三十二話 結納その十
「嫉妬というものはどうも」
「感じぬか」
「幼い頃から。そうしたことは」
「わしもじゃ。では」
「夫婦になる前からでしょうか」
「わし等は似ておるのかのう」
こうだ。信長も話す。
「幼い頃からな」
「そうですね。考えてみれば」
「ははは、似た者同士だから一緒になったのかもな」
信長はここで笑った。そのうえでの言葉だった。
「縁があってな」
「そうかも知れませんね、それは」
「ではじゃ」
ここまで話してだ。信長はだ。
話題を変えてきた。その話題は。
「さて、では茶を飲んだ後でじゃ」
「その後で」
「何をしようかのう」
楽しげに笑ってだ。妻に問うのである。
「馬でも乗るか」
「宜しいのでは、それで」
「うむ、それではじゃ」
帰蝶の言葉にだ。信長は頷いた。
そうしてだ。まずは茶を飲んでだった。
「では行くとするか」
「はい、それでは」
「服を着替えるか」
「いえ、それには及びません」
「まさかと思うがその服で馬に乗るのか?」
信長は怪訝な顔になった。何故ならだ。
帰蝶の今の服はだ。奥方のその服である。その服で馬に乗ると思ってである。
「無理じゃろ、それは」
「いえ、着替えなぞはです」
「それは?」
「一瞬でできます」
こう話すのであった。
「その様なものは」
「一瞬か」
「はい、少なくとも然程時間は取りません」
「そこもじゃな」
ここでまた笑って言う信長だった。
「わしと同じじゃ」
「服を替えるのが早いところも」
「忍の者の様にのう」
彼等の着替えの早さについてはだ。もう言うまでもなかった。
「そうしたところもじゃ」
「同じだと」
「しかしよい。ではじゃ」
「はい、共に馬に乗りましょう」
「そうしようぞ」
こう話してであった。彼等は馬に乗りに言った。その乗り方もだ。実によく似ていたのである。
第三十二話 完
2011・3・16
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