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戦国異伝

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第三十二話 結納その四


「そうですな。人たらしといいますと」
「人たらしとな」
「そうです。そうしたものを感じます」
「では。わしは顔ではないのか」
 木下も自分でそれを話す。
「左様か」
「ですから。先程から申し上げている通りです」
「顔だけではなく」
「そうです。少なくとも兄上は嫌われる性格ではありません」
 今度はこのことを指摘してみせるのだった。
「嫌われた経験は。おありですか」
「むっ、言われてみれば」
 そう問われるとだ。彼も気付いたのだった。
「今の織田家において」
「誰からも嫌われてはおりませんな」
「権六殿には時折言われるが」
「あの方はあれが普通です」
 柴田についてはそうなのだというのだ。
「むしろあの方は本当にお嫌いなら」
「ああはされぬか」
「一切話されません」
 本当に嫌いな相手にはそうする、それが柴田だというのである。
「そういう方ですから」
「そうじゃな。確かに」
「少なくとも柴田殿には嫌われておりません」
 それは確かだというのだ。そのうえでだ。
 彼はだ。さらに話すのだった。
「おなごにはどうですか」
「むっ、嫌われたことはないな」
 そのねねをはじめとしてだというのだ。
「誰からもな」
「左様ですな。誰からもですな」
「ではわしは」
「はい、人たらしなのです」
 そうだというのだ。木下はだ。
「それもかなりの」
「そうか。わしは顔は悪くとも」
「嫌われることはありません」
「そうか、ないのか」
「はい、ありません」
 また話すのだった。
「ですから御安心下さい」
「そうか。ではわしは」
「ねね殿と。幸せになって下さい」
「よし、もっともっと凄くなるぞ」
 弟の話をここまで聞いてだ。晴れやかな顔になった。
 そしてそのうえでだ。彼はねねを妻に迎えたのだった。
 穏やかな顔立ちでそれでいて明るいものを併せ持った。白い顔の女である。背は小柄だがそれでもだ。中々整った身体をしている。
 その彼女を妻に迎えたのである。彼は得意満面だった。
 そして前田もだ。見事な長い黒髪に細長い流麗な眉、それに小さな赤い唇、黒く大きな目を持っている背の高い女を前にしていた。その女に言うのだった。
「ううむ、何かのう」
「どうされました?」
「妻に迎えた気がせんわ」
 それがないというのだ。
「ずっと一緒におったしのう」
「ですね。私が前田家に来たのは」
「そなたが子供の頃じゃった」
 その頃にだ。彼女は前田家に来たというのだ。
「そうじゃったしな」
「それから供にいましたから」
「そうじゃ。妻というよりは」
「いうよりは?」
「妹みたいじゃな」
 こう話すのだった。
「どうもな」
「ではお嫌ですか?」
 そのおなごはこう話すのだった。
「そうですか?」
「いやいや、まつよ」
 前田は笑ってだ。彼女にこう話して述べたのだった。 
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