戦国異伝
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第三十話 交差その七
「ではじゃ。帰るぞ」
「はい、わかり申した」
「それではですね」
「今から」
こうしてだった。信長達はあらためてだ。馬を進めていく。そうしてだった。
そのうえでだった。越後の黒い一団とだ。擦れ違うのだった。
青と黒が擦れ違う。その中でだ。
信長と謙信もだ。擦れ違った。二人はお互いを見ようとしない。前を見ているだけだった。しかしなのだった。
謙信はだ。信長が擦れ違ってからだ。こう二十五将達に話すのだった。
「あれが尾張の蛟龍ですね」
「はい、うつけと評判の」
「あの者がです」
「織田信長です」
「どうやら。間も無くですね」
謙信はだ。遠くを見る目でだ。彼等にこう話した。
「蛟が天に昇るのは」
「間も無くだというのですか」
「蛟が龍になるのは」
「そうだと」
「はい、間も無くです」
謙信のその言葉はだ。確かなものだった。
「その時が来ようとしています」
「あのうつけ殿がでござるか」
「殿と同じ龍に」
「それになられるのでござるか」
「左様です。蛟は龍になるもの」
「ううむ、左様ですか」
「凄い者になりますか」
二十五将達もだ。それがようやくわかってきた。
「そういえばあの男の目は」
「確かに。うつけの目ではない」
「甲斐の虎に似ておるか?」
一人がだ。信玄の名前を出した。
「あの男に」
「いえ、少し違いますね」
だが、だ。謙信がそれを否定した。
「甲斐の虎とは」
「違いますか」
「武田とはまた違う」
「左様ですか」
「そうです、何かまた別なのです」
信長はそうした男だというのである。
「大きい者になります」
「では殿」
「やがては我等とも」
「戦うことになる」
「その危険はあるでしょうか」
「ありますね」
謙信もそれは否定しなかった。その可能性をだ。
「その時は。用心すべきです」
「武田以上にですか」
「無論北条以上に」
「そこまでの男ですか」
「おそらく武は甲斐の虎の方が上です」
謙信は冷静に話す。
「しかし。尾張の蛟龍はです」
「それ以上のものを持っておりますか」
「それがあの男ですか」
「織田信長」
「はい、私もまた彼と戦う時は」
謙信の言葉に強いものが宿る。
「毘沙門天になりましょう」
「軍神になられそのうえで、ですね」
「戦われる」
「そうされますか」
「はい、軍神となり」
こう話していく。
「そのうえで戦いましょう」
「尾張の織田信長、確かに」
今度はだ。直江が言うのだった。
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