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戦国異伝

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第三十話 交差その五


「若し伴天連が力を持てばじゃ」
「比叡山と同じになりますか」
「いや、比叡山より危ういのう」
「比叡山よりもでございますか」
 その言葉に驚いたのは川尻だった。真剣な顔である。
「あの比叡山よりも」
「本願寺よりもじゃな」
 さらに言うのであった。
「危ういのう。力を持てば」
「延暦寺や本願寺までとは」
「延暦寺や本願寺が何の理由もなく他の寺社を襲うか」
 信長が言うのはそこだった。
「揉めてもおらん相手にじゃ。そこまでするか」
「いえ、流石にそこまでは」
「あの本願寺といえど」
「延暦寺もですが」
 川尻以外の他の家臣達もそれは言う。確かにだ。
「そこまではしません」
「揉めていなければ何もしません」
「流石にです」
「そうじゃ。吉兵衛の話を聞くとじゃ」
 その村井に顔を向けての言葉である。
「理由がないのじゃな。襲うことに」
「はい、自分達とは信じる神仏が違うというだけで、でございます」
「そんなことは理由にはならんわ」
 信長は今度は口を尖らせた。
「わしは基本的に僧兵とかは好きではないがじゃ」
「それでも。神仏が違うというだけでは」
「普通は何もしませぬな」
「流石に」
「あの日蓮上人とて口では言ったが拳は振るわなかったわ」
 信長はこのことを指摘した。
「そんなことはしてはおらん」
「今で、すらですな」
「そこまでする者はおりませぬ」
「確かに。延暦寺や本願寺の比ではございませぬな」
「そうした連中は」
「伴天連は面白いことは面白い」
 信長は彼等にも価値を見出している。それは確かだ。
「しかしじゃ」
「しかしでございますな」
「それでも。そうした動きは」
「捨ておけませんな」
「教えで戦うのが一番厄介じゃ」
 信長はこんなことも言った。
「一向宗を見てもわかるな」
「そうですな。あれ以上に攻撃的だとしますと」
「まさに野獣ですな」
「それに近いですな」
「伴天連にはまだ何かと謎も多いな」
 信長はこうも話した。
「だからじゃ。これからもじゃ」
「注意しておきますか」
「持て囃すだけでなく」
「それもまた」
「何でも持て囃してばかりでは駄目じゃ」
 いささかだ。子供に話す様に言う信長だった。
「やはりじゃ。幾分か、いやそれ以上にじゃ」
「注意は必要ですか」
「そうでございますか」
「伴天連に対しては」
「中には怪しい者もおる」
 ここでは断言であった。それを出したのだ。
「日本を己達のものにせんとしておる輩もおるな」
「伴天連もそれぞれですか」
「そうした者もいる」
「その辺りは何処でも同じなのですな」
「そうじゃな。伴天連も人間じゃ」
 だからだというのだ。伴天連もまた人間だと話すのだ。ここではいい意味も悪い意味も含まれている。どちらもなのである。
「悪人もおるわ」
「そうした伴天連の動きは用心ですな」
「早いうちに堺等を押さえるべきでしょうか」
「とりあえずは」
「まあ急ぐな」
 それはするなというのであった。焦ることはだ。 
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