戦国異伝
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第三十話 交差その四
「あの顔は見事じゃな」
「まあ殿はそちらもでしたな」
「話には聞いておりますが」
「そうでしたな」
「その通りじゃ」
信長もその趣味を隠さない。この時代では普通のことだ。
「そういえばあの上杉謙信もそうであろう」
「はい、それは聞いております」
「武田信玄もです」
「あの者もです」
彼等もまた、だ。そうした趣味も持っているのだ。だからといって誰も批判したりはしない。それは当然のことであるからだ。だからこそだ。
「そうした趣味があります」
「まあ大した話ではありませんな」
「全くです」
「いやいや、それがなのじゃ」
ここでだ。周りに話すのは村井であった。
「あながちそうとも言えぬ。堺に伴天連がおったな」
「ああ、あの変わった寺を建てていた」
「あの頭を上だけ剃っていた」
「あの連中でございますか」
「そうじゃ、あの連中じゃ」
まさにだ。その彼等だというのだ。
「あの連中はそうしたことをえらく嫌っておる」
「そうだったのでござるか」
「何もおかしなところはないと思いますがな」
「いや、全くです」
「そうした趣味はなくとも」
とにかく彼等にはわからないことだった。これこそが文化の違いなのであるが彼等にはまだそうしたことは知らないことであった。
村井はだ。ここでさらに話す。
「この世から消さねばならんとまで言っておるぞ」
「極端ですな」
「いや、全く」
「それはまた」
彼等は村井のその話を聞いてまた述べた。
「この世からとは」
「男が男を愛することをこの世からでございますか」
「まことに極端ですな」
「それ程嫌っているのですか」
「それはまた異様ですな」
「全くでござる」
誰もがそう考えることだった。そしてだ。
信長もだ。腕を組んで考える顔になってだ。こう述べるのだった。
「幾ら何でもこの世からとまでは言うまい」
「それが言っておるからこそです」
「男も女もじゃ。それこそが懐の大きさではないか」
信長もまたあくまで本朝の考えの中にある。それは彼とて同じだ。
「そうした否定はのう。何にもならんが」
「伴天連は他にも神仏を攻撃しておりますし」
「伴天連の神も神ではないのか?」
「それが他の神や仏を信じません」
それが彼等だというのである。
「全くです。そしてそのうえで」
「攻撃するというのか」
「しかもかなり激しいです」
「日蓮宗みたいなものか?」
信長はその日蓮宗だ。だからその名前を出したのである。
「ああした感じなのか?それでは」
「いえ、口調や言っていることはさらに激しかったです」
「日蓮宗よりもか」
「それどころではありません」
日蓮宗よりだ。さらに上だというのだ。
「何時武器を持って襲い掛かるかわからぬ程です」
「ううむ、そこまでなのか」
「それを教会とかいいましたな」
この辺りはまだ完全にわかっていない村井だった。首を傾げさせながらの言葉になっている。
「その寺に出入りする者達にもそれを言いますし」
「まずいな、それは」
信長はそこまで聞いて目を光らせた。
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