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戦国異伝

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第三十話 交差その一


                 第三十話  交差 
 信長は都を経つことになった。その朝だ。
 彼は家臣達と共に朝食を食べながらだ。こんな話をした。
「どうも都の飯はいかんのう」
「そうですな。これは」
「どうも味が薄いでござる」
「どうにもこれでは」
「物足りませぬな」
「そうじゃな」
 家臣達もであった。都の食事にだ。どうにも馴染めていないのであった。
「これが都の食事かのう」
「寺の飯ですからこうなのでしょうか」
「それで薄いと」
「そうも思えますが」
「そうであればよいのだがな」
 汁を吸いながらだ。信長はいぶかしんで述べた。
「この薄さはどうにもな」
「尾張のあの濃い味が懐かしいですな」
「これでは。どうにも」
「食べた気がしませぬな」
「あまりにも薄くて」
 家臣達も信長と同じであった。舌は誤魔化せない。彼等にとって都の食事はだ。どうにも馴染めない、そうしたものであった。
 それを食べ終わってからであった。信長はまた話すのだった。
「まあ食ったしのう」
「それではですな」
「今より」
「うむ、発とう」
 信長は家臣達に告げた。そうしてであった。
 柴田がだ。ここで他の家臣達に述べた。
「尾張に帰ればじゃ。皆で少しくつろぐとするかのう」
「といいますと権六殿が茶会を開かれるとか」
「そうされるおつもりでしょうか」
「まさかとは思いますが」
「生憎だがわしはそこまで茶の道には深くない」
 織田家きっての武闘派であり外見も大柄で厳しい。その為柴田は何かと武骨な印象を与える。しかし実際の彼はそうではなかった。 
 戦だけでなく政もだ。それも得意なのだ。それに茶もだ。
 造詣がある。それが彼なのだった。しかしであった。
「平手殿の茶を馳走になろうではないか」
「おお、平手殿ですか」
「あの方の茶もそういえば」
「長い間飲んでいませんな」
「そうですな」
 皆平手のその言葉にだ。気付いたのである。
「平手殿のお顔を見るのも久し振りですし」
「あの小言も思えば懐かしいですな」
「そうですな」
「そうじゃ。早く尾張に帰って平手殿の小言を聞こうではないか」
 柴田は笑ってこう話すのであった。しかしだ。
 信長はそれを聞いてだ。嫌そうな顔になってだ。そのうえでこう言うのだった。
「御主等、正気か?」
「正気ですが」
「ですから平手殿のお顔を見たいのですが」
「それはいけませんか」
「爺の顔を見るのはいい」
 信長はそれはいいとした。
「しかし。あの小言を聞きたいのか?」
「懐かしくはありませぬか、あの御仁の小言も」
「久しく聞いていないと」
「そうなりはしませぬか?」
「なるものか」
 信長ははっきりと述べた。
「わしは酒と爺の小言は大の苦手なのじゃ」
「まあ。平手殿の小言は殿に一番いきますからなあ
「始終言われますから」
「それを聞くとなればですな」
「確かに厄介ですな」
「全く。留守を任せて正解じゃった」
 本来の意志はそこまでではない。しかしなのだった。ここではこう言うのであった。
「小言を聞かなくて済んだわ」
「しかし尾張に帰ればです」
「その小言が待っております」
「覚悟されて帰られるべきかと」
「やれやれじゃな。しかしじゃ」
 わざと溜息を出してからだ。信長は表情をすぐに真剣なものにさせてだ。 
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