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戦国異伝

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第二十九話 剣将軍その十


「流石に越後の上杉には負け続けていますが」
「あの者は尋常な者ではありませぬ」
「まさに軍神です」
「そうよ、軍神よ」
 謙信はだ。まさにそれだというのである。
「その軍神に対することもじゃ」
「大事でございますか」
「左様でございますか」
「色のある具足や兜の者達こそが厄介なのじゃ」
 ここでだ。こんなことも話された。
「赤に黒、白に青、紺、緑に紫に橙にじゃ」
「武田、上杉、北条、織田、浅井、毛利、長宗我部、島津」
「あの者達ですな」
「我等は闇。闇は色とは違う」
「だからこそ色の家には」
「用心をですな」
「そうよ。特に青よ」
 それだというのだ。その青こそがだとだ。
「織田よ。あの蛟、このままだとさらにじゃ」
「尾張一国に留まらず」
「伊勢も美濃も併呑し」
「やがては都を制し」
「天下までをも」
「全ての色もあの男の下に集まる」
 そうなるともいうのだ。色もだとだ。
「そうして我等の闇を消さんとするだろうな」
「我等に気付き」
「そうしてでございますか」
「この我等を」
「あの男、尋常な勘ではない」
 信長はただ頭が切れるだけではない。その勘もだ。恐ろしいまでに鋭いのだ。それもまた信長の武器となっているのである。
「我等に気付くやもな」
「だからこそ余計にでございますか」
「あの男は放ってはおけぬ」
「左様でございますか」
「そうよ。注意せよ」
 また話されるのだった。
「尾張こそをな」
「では。尾張と結ぼうとする将軍をですな」
「まずは何とかしましょう」
「今は」
「そうせよ。よいな」
 あらためてだ。義輝について話された。
 そうしてだ。そのうえでだった。
「我が一族を。一度全て集めようぞ」
「十二の家をですな」
「一旦この闇の中に」
「そうされますか」
「そうだ、集める」
 また言うのであった。
「では。よいな」
「御意、それでは」
「我等の他にも」
「集めましょう」
「この闇の中に」
「今より」
 こう話してであった。彼等は闇の中で蠢くのだった。
 信長はまだ彼等のことを知らない。しかしだった。彼等は確かにいた。そしてそのうえでだ。闇の中で蠢動を続けるのであった。


第二十九話   完


             2011・2・24 
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