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戦国異伝

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第二十九話 剣将軍その九


「尾張のあの者だけではなくなってきたな」
「はい、武田や上杉もです」
「北条に毛利も」
「伊達に島津も。力をつけてきております」
「どうやら。天下はです」
「次第に一つになろうとしておりますな」
「まだじゃ。それはまださせてはならん」 
 その動きがだ。否定されるのであった。
「まだじゃ。わかるな」
「はい、まだ血を流してもらわなければなりません」
「天下の血は流れ足りません」
「我等が喉を潤すには足りません」
「腹は満ちてはおりません」
「その通りじゃ」
 まただ。中央の声が言った。
「この程度ではのう」
「戦乱は確かに多くの血が流れますが」
「どうもこの国の戦乱は民はあまり巻き込まれませんので」
「特に今は」
「かえって人が増えているとか」
 これはその通りであった。大名達はやがて己の民となる者達や土地にはこれといって手を出さない。その為か民も戦になればそれを観戦する程であった。
 それではだ。血が流れるのは城や戦の場だけである。それではなのだった。
「南蛮の争いは壮絶なものがあるようですな」
「明よりもさらに」
「恐ろしいまでの血が流れるとか」
「それも戦がなくともです」
 彼等の声にもだ。何かが宿っていた。それこそがなのだった。
「魔女狩りなどと称して無辜の者を捕らえいたぶり」
「そのうえで嬲り殺し多くの血が流れるとか」
「実によいものですな、南蛮とは」
「常に血が多く流れる」
「素晴しいことです」
「そうじゃな。南蛮じゃな」
 南蛮についてだ。注目が為されるのだった。
「あの様に。この国も血生臭くなればのう」
「ではどうされますか」
「一向宗を動かしますか」
「そうされますか」
「それもあるな」
 よいとされた。考えの一つとしてだ。
「それもな」
「そうですか。それもですか」
「血を多く流す為には」
「それもまた」
「加賀や越前だけでは足りぬと思っていましたし」
 一向一揆は北陸を中心に暴れ回っていた。上杉とも戦っている。 
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