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戦国異伝

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第二十九話 剣将軍その七


 彼等はだ。その闇の中でだ。くぐもった声で話していた。
「ふむ。将軍にか」
「そう言うとはな」
「これは想像していませんでしたね」
「全くです」
 信長についての話であった。明らかに。
「それによりあの将軍は目覚めたようです」
「元より才のある人物」
「これは厄介な人物になりますかな」
「少なくともあの男と組ませてはなりませんな」
「全くですな」
「御飾りならともかく」
 奇しくもだ。信長と同じ様な言葉が出た。しかしだった。
 そこにあるものはだ。信長のそれとは違っていた。明確な、どす黒い悪意があった。
 そしてその悪意がだ。闇をさらに暗くしていくのであった。
「下手に動いてもらうと」
「ましてあの男と組まれると」
「面倒ですな」
 この言葉が出た。
「ではやはりですな」
「動きが目につくようならばです」
「消えてもらいますか」
「ここは」
 こうしたことがだ。語られるのであった。
「ではどうして消しましょうか」
「毒はどうでしょうか」
 まずはこのことが提案された。
「毒を酒か茶に仕込みますか」
「そうして消えてもらうと」
「それがいいというのですな」
「左様、それはどうでしょか」
 毒が話されていく。それはどうかというのである。
「これならば急死ということで話が済みます故」
「確かに。いいものですな」
「理由にはもってこいです」
「我等の得意としているものの一つですし」
「それならばですな」
「毒で決まりでしょうか」
 確かにそれで決まりかけた。毒はそれだけの力があり彼等もそれに自信を見せる。しかしなのだった。
 ここでだ。闇の中央からこう声がした。
「いや、待て」
「待てとは」
「では毒は駄目だと」
「そう仰るのですか」
「将軍の傍にはあれでも切れ者が揃っておる」
 その彼等の話をするのだった。
「明智光秀に細川藤孝よ」
「あの者達がいるからでござるか」
「それは果たせぬと」
「毒は」
「そうじゃ。見破られてしまう」
 その二人によってだ。そうなってしまうというのである。
「そうなっては元も子もない」
「失敗すれば何にもならぬ」
「だからでございますか」
「そうじゃ。しくじれば何にもならぬ」
 中央の声がだ。まさにそれだというのである。
「だからこそじゃ。やるからにはじゃ」
「確実に、ですか」
「この場合はでございますか」
「将軍まであの男になびいてはことじゃ」
 それが理由だというのである。
「そうなるならばじゃ」
「何があろうともですね」
「将軍を葬る」
「必ず」
「しかし。毒が駄目ならです」
 それを否定する。そのうえでの言葉だった。
「何を以て始末しますか」
「刺客では倒せませぬ」
 これは論外というのであった。 
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