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戦国異伝

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第二十九話 剣将軍その四


「家臣の者達がいます」
「家臣か」
「武家の棟梁です。ですから」
「それでか。余には」
「その者達を信じ用いられることです」
 具体的にはそういうことだった。
「そうされることです」
「ではじゃ」
 また信長を見てだった。義輝は話した。
「上総介よ」
「はい」
「そなたを頼りとしよう」
 こうだ。微笑んで告げたのだった。
「そなたは大きなものを抱いておる、しかしそれは余もだ」
「だからでございますか」
「そなたに言われた通り大きくなり」
 そしてだというのだ。
「そのうえでじゃ。そうしよう」
「左様でございますか」
「それでよいか」
 信長を見続けている。そのうえでの言葉である。
「そなたを頼りにして」
「公方様が大きくなられるのでしたら」
「そうか。その時はな」
「共に」
 こう話すのであった。そしてだ。
 信長は義輝と言葉だけでなく他のものも交えさせた。そうしたのであった。
 それが終わってからだ。信長は将軍の前から退室してだ。そのうえで。
 明智に対してだ。こう話した。
「公方様はじゃ」
「立派な方ですね」
「そうじゃな。筋は素晴しい方じゃ」
「ですがそれでもです」
「剣か」
「それにあまりにものめりこんでおられましたので」
「将軍はそうであってはならんのだ」
 信長の目が遠いものになっていた。
「だからじゃあ。ああしてじゃ」
「公方様にお話されたのですね」
「あの方は大きくなられる」
「そうなられますか」
「その大きくなられる方ならばじゃ」
 その時はだというのであった。
「わしは喜んであの方の為に働こう」
「そうして頂けますか」
「うむ、そうしよう」
 こう話してであった。彼は義輝の人物を見極め彼の力になろうと決意したのだ。
 しかしである。それでもなのだった。
 信長は己の宿にしている寺に入ってだ。そこでだった。
 家臣達にだ。こう話した。
「あの方のままであればいいのだが」
「義輝公から代わられるというのですか」
「将軍がですか」
「まさか。それでは」
「三好や松永が」
「公方様を」
「充分に考えられることじゃ」
 信長もだ。それについて言及する。
「とりわけ。松永はじゃ」
「大和のあの者がですか」
「とりわけ危険ですか」
「そうだと」
「その策謀だけではない」
 眉を顰めさせての言葉だった。 
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