戦国異伝
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第二十七話 刺客への悪戯その一
第二十七話 刺客への悪戯
謙信はこの時北陸道からだ。都に向かっていた。
一行は馬で進んでいく。その時にふと謙信がこう言った。
「この馬ですが」
「馬ですか」
「馬に何か」
「甲斐の馬は見事です」
謙信の宿敵である武田の馬の話であった。その話をするのである。
「幾度戦ってもそれを思います」
「確かに。武田の馬は見事です」
「どの馬も」
「そして武田の騎馬隊もです」
武田といえばその騎馬隊が代名詞にさえなっていた。赤揃えの軍勢が馬に乗り一斉に突き進むその姿は周辺の国々を心底恐れさせている。
「信濃は名馬の産地です」
「その信濃の馬を手に入れです」
「前よりもさらに強くなっています」
「その通りです」
家臣達の言葉に頷く謙信だった。そしてだ。
謙信はだ。ここでさらにこんなことを話すのだった。
「我々も馬には恵まれています」
「はい、我等も優れた騎馬隊を持っています」
「そして多くの名馬もです」
「それこそ武田に引けを取りません」
「何があろうとも」
「若しもです」
しかしだった。謙信はさらに話すのだった。彼もまた多くの馬を持っている、その現実を置いてだ。彼はさらに話をするのだった。
「馬がなければ」
「その時にですか」
「その時にはどうするか」
「どう戦うかですか」
「そうです。どう戦うべきかわかりますか」
こう家臣達に問うのだった。馬を進めながら。
「馬を持たぬ時に。どう馬と戦うべきか」
「それは」
「そう言われますと」
なまじ馬を持っているだけにだ。彼等は返答に窮することになった。馬には馬で、これが彼等の戦い方でありそこから逸脱することがなかったのだ。
それで返答に困ってしまった。だがその彼等にだ。
謙信はだ。落ち着き払った声でこう話した。
「槍です」
「槍ですか」
「槍を使われるというのですか」
「そうです。足軽達が槍を前に幾段も出してです」
それでだというのである。
「馬が突き進んでくるのを防ぎ。そして」
「そしてですか」
「さらに」
「その穂先で叩き突き刺します」
槍の使い方であった。まさにそれである。
「そうして戦うのです」
「ううむ、足軽で馬を倒せるのですか」
「それが可能なのですか」
「槍を使えば」
「刀では無理です」
それはもう言うまでもなかった。馬に乗っている者に下から刀で斬りつけてもだ。何の意味もないことは考えるまでもないことだった。
それでそれは言うまでもなかった。そしてだ。謙信はさらに話すのだった。
「弓もです。射る前に突入されれば終わりです」
「そうですな。陣に入られればそれで」
「何もかもが終わりです」
「射抜けばそれでいいのですが」
それでもだった。弓は射るまでに時間がかかる。次を放つ間もだ。それが問題なのだった。
「守りが不安になり申すな」
「そこが厄介です」
「鉄砲も同じです」
謙信はそれは鉄砲もだというのである。
「撃ち、そして次を撃つ間に馬に入られれば終わりです」
「ですから槍ですか」
「それで馬を防ぐのですか」
「そして戦うと」
「その通りです。ただ」
またしてもだ。謙信の言葉が止まった。そのうえでまた言うのだった。
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