戦国異伝
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第二十六話 堺その七
「最早斉藤なぞ恐るに足りません」
「左様ですな、それでは」
蜂屋の声も強い。
「斉藤も併呑し。一気に天下に近付けまする」
「伊勢、やはり大きいですな」
坂井も腕を組んで感嘆の声を漏らす。
「我等の天下の為に」
「そういうことじゃ。それで伊勢なのじゃ」
信長が伊勢にこだわる理由はだ。まさにそこにあるのであった。
「美濃を押さえれば都への道が開ける」
「はい」
「確かに」
「しかし伊勢はその美濃を手に入れる為に必要なのじゃ」
話がつながっていた。見事なまでにだ。
「そういうことじゃ」
「左様ですな。して殿」
生駒であった。今度は。
「一つ宜しいでしょうか」
「うむ、あのことじゃな」
「はい、来ております」
生駒の言葉はいささか剣呑なものになってきていた。言葉も低くなっている。
「この堺に」
「先回りしておったな」
信長はまた顔を変えていた。察するものになっている。
「向こうもやりおるわ」
「如何されますか」
生駒はその剣呑な響きの言葉で主に問うた。
「ここは。我等から攻めますか」
「そうじゃな。そうしようぞ」
「さすれば」
生駒の目が動いた。そうしてであった。
彼はだ。主にこう述べるのだった。
「ここは小六殿で」
「おう、出番か」
蜂須賀が顔を崩して応えてきた。
「わしとその手の者で奴等をだな」
「御願いできますかな」
「望むところよ。ではじゃ」
「わしも行ってよいか」
滝川も鋭い目になって名乗り出た。
「そうしたことならだ。元よりしてきたことだしな」
「そうですな。久助殿も」
生駒は彼の言葉に応えて述べた。
「ここは」
「よし、さすればじゃな」
こうして二人とその手の者達が宿を出ようとする。手の者達の気配はしない。しかしそれでも動こうとしているのは確かなことだった。
そうなろうとしていた。しかしだった。
信長がだ。彼等に告げた。
「待て」
「待てとは?」
「殿、何か」
「御主等が密かに動くことはない」
こう告げるのだった。
「それはよい」
「?ですが殿」
蜂須賀が怪訝な顔になって信長に言葉を返した。
「相手は刺客ですぞ」
「わかっておるぞ」
「それならばです」
蜂須賀はその怪訝な顔のままで主にさらに言う。
「ここはわし等が向かい」
「消すのはたやすい」
それはだというのである。
「慶次なりを送れば済むからのう」
「実際にわしでしたら」
その慶次も応えてきた。
「幾らおっても一人で倒してみせますぞ」
「そうじゃな。だからそれはたやすいのじゃ」
「しかしそれはされぬのですな」
「そうじゃ」
また答える信長だった。
「だからそれはたやすい。しかしじゃ」
「しかしですか」
「それでもなのですか」
「ここは面白いことをしよう」
こんなことをだ。笑顔で言うのであった。
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