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戦国異伝

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第二十六話 堺その六


「そうではないのですか」
「美濃はそう簡単には攻め落とせぬ」
 これが金森に対する信長の返事だった。
「さすればよ」
「それをせずにでございますか」
「まずは伊勢を手中に収めその力を手に入れる」
 伊勢一国をというのである。信長は先の先まで見ていた。そのうえでの言葉だった。
「美濃はそれからよ」
「斉藤義龍ですが」
 彼について言ったのは川尻だった。
「決して侮れる男ではありませんな」
「そうじゃ。あの男はやるぞ」
 こう川尻に返す信長だった。
「さすればじゃ。まずは伊勢よ」
「伊勢は豊かでございますし」 
 滝川も言ってきた。
「それに小さな国人達が多く守護に反発しております故」
「それであの者達に仕掛けておるのよ」
 その調略をというのだ。
「今からのう」
「随分と早いですな」
「それはまた」
「何、早ければ早いだけよいのだ」
 家臣達に笑って返すのだった。
「そうしたことはな」
「そうして伊勢を」
「我等の手に」
「守護の北畠じゃがな」
 信長はその家についても言及した。
「伊勢にある家ではやはり一番力がある」
「はい、それは確かに」
「その通りでございます」
 万見と大津が述べる。
「守護だけはあります」
「衰えたとはいえ」
「あの家には用心しておる」
 信長の目に実際に慎重なものが宿っていた。
「しかし北畠を軍門に下さずしてじゃ」
「伊勢を手中には収められませんな」
「やはり」
 今度は堀と矢部が述べた。
「あの家です」
「伊勢の要は」
「そうよ。あの家もまた手中に収める」
 信長の言葉は変わらない。北畠に対しても。
「だからあの家にも調略を仕掛けておるのじゃ」
「ふむ。それではですな」
 ここで言ったのは毛利だった。彼だった。
「それがし達を全て使って伊勢に仕掛けていたのは」
「そうよ。伊勢をそのまま攻めてはかえって駄目なのじゃ」
 そうだというのである。
「国人共も抵抗しおるし北畠がここぞとばかりじゃ」
「国人をまとめますな」
 今言ったのは前野だ。
「伊勢に攻め込んだ我等を追い出せと」
「そうなってはことよ。伊勢は攻めぬ方がよい」
「しかしですな」
 菅屋である。
「伊勢は手中に収めなければならない」
「そうじゃ。伊勢を手に入れれば違うからのう」
 信長は尾張だけに止まってはいなかった。既に彼の頭の中ではだ。どの様にして伊勢を手中に収めるか、そのこともあり既に動いているのであった。
「伊勢の兵を手に入れればどうじゃ」
「二万おりますな」
 兵の数を言ったのは中川だった。
「伊勢と志摩で」
「二万じゃ。それと尾張の一万五千を合わせればじゃ」
 信長は頭の中で三国の兵を合わせた。すると。
「三万五千じゃ。どうじゃ」
「殿、それだけの兵があれば」
 前田が身を乗り出して言ってきた。 
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