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戦国異伝

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第二十五話 堺へその五


「商いになりそれを作る者も売る者も栄えさせる」
「そしてそれはそのまま国を富ませる」
「そうだろいうのですね」
「そういうことじゃ。大和は他には茶もいけるしのう」
 彼が今飲んでいるその茶もだというのだ。
「よい場所じゃ」
「ううむ。米だけでなく酒や酢、紙に茶ですか」
「そうしたものも増やしていきますか」
「そうじゃ。わかったな」
 信長ははっきりした顔で家臣達に告げた。
「このことが」
「はい、よく」
「それもですな」
「これからは」
「米だけをやっていればいいと誰が決めたのじゃ」
 信長はこんなことも言うのだった。
「確かに米は必要じゃ」
「それは欠かせません」
 丹羽がすかさず言ってきた。
「やはり米がなくては何もできませぬ」
「しかしじゃ。米以外にもじゃ」
「作っていけばよいですな」
「その通りじゃ。何でもじゃ」
 これが信長の考えであった。
「増やして誰もが豊かになればよい」
「その為にもですな」
「例えば尾張じゃ」
 彼等の国に他ならない。その尾張の話をするのである。
「胡麻を植えさせておるな」
「はい、あれもいいですか」
「よい金になります」
「あれを入れると入れぬとでは食い物の味が違う」
 味覚の話がここでも出た。
「だからあれはより多く作らせてじゃ」
「そのうえで売る」
「そうされますか」
「そうせよ。それとじゃ」
 信長の話は続く。
「他には豆じゃな」
「豆ですか」
「大豆ですな」
「それも作らせるとよいのう」
 それぞれの国の作物だけではない。豆もだというのである。
「あれから豆腐なり色々できるからのう」
「国によっては納豆というものを作りますな」
 ここで言ったのは林通勝であった。
「豆を腐らせそのうえで作るとか」
「何じゃ、それは」
「随分奇怪なものでござるな」
「それが食いものでござるか」
 それを聞いた多くの者が驚きの声をあげた。
「豆を腐らせそのうえで食らうとは」
「その様なものがあるとは」
「それはまた」
「まあその納豆だけに限らずじゃ」
 しかしだ。信長は林のその話を聞いても特に驚かずにだ。落ち着いた声で述べていく。
「味噌なり湯葉なり醤油もできるからじゃ」
「豆からですな」
「それから」
「だから豆もどんどん作らせる」
 そうするというのだった。
「麦なり野菜なり何なりじゃ。どんどん作らせよ」
「そこから税は」
 それを問うたのは前田だった。
「取られますか」
「年貢だけでよい」
 信長は前田の問いにはこれだけで返した。
「米からだけでのう」
「ではそうしたものからは取りませぬか」
「基本的にはのう。どんどん作らせてそれで金を動かしてくれればよい」
 それだけでよいというのである。信長は考える顔で述べていく。
「金が動けばそれでこちらにも入るからのう」
「成程、税を取らぬのも豊かにするやり方でございますか」
 佐々はそれを聞いてだ。驚いた顔で感銘を見せていた。 
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