戦国異伝

「宜しく頼むぞ」
「この者達が殿の近辺を守る者達ですね」
「まさに」
「その通りだ。そしてその方等もいる」
　あらためて平手達を見回しての言葉だった。
「頼んだぞ」
「はい、それでは」
「戦にも政にも」
「そうだな。戦だな」
　森の言葉にだった。吉法師は反応を見せた。
「間も無く元服しそのうえでだったな」
「左様です」
　その森が応えてきた。
「元服されたらすぐにです」
「わかった。それでは初陣はだ」
「おそらく今川になります」
　今度は滝川が言ってきた。
「近頃尾張にしきりに攻めてきておりますし」
「今川か。どうやら尾張を手中に収めたいらしいな」
「それは間違いありませんな」
　平手も今川のことにはその目を鋭くさせる。
「今側は上洛を目指しています。ですからこの尾張は必ず必要です」
「今川のう」
　ここで吉法師は少し考える顔になった。そのうえでまた言ったのであった。
「将軍にもなれたな」
「左様です」
　林が応えてきた。
「今川家は源氏の名門、将軍の継承権も持っております」
「足利、吉良」
　吉法師は林の言葉を受けて二つの姓を出してきた。
「その二つの家と共にだったな」
「その通りでございます。ですから都に上がれば将軍になることも可能です」
「今川家だけはそれができるな」
　吉法師は林の言葉を聞きながら冷静に述べた。
「そうだな」
「ですから尚更ですな」
「奴等はこの尾張を狙う」
「そのうえでさらに都に向かうかと」
「尾張から美濃、そして近江じゃな」
　吉法師は居並ぶその家臣達の言葉を聞きながら述べた。
「そう来るな」
「美濃の斉藤や近江の六角も倒してそのうえで」
「都にですか」
「まあできるかどうかはわからんがだ」
　吉法師は冷めた目で述べた。今度はそうしためになっていた。
「それを望んでいることは確かだ」
「上洛を」
「そして将軍になることを」
「そうだ、それは間違いない」
　それはだというのだ。
「そしてそれを考えていることがここでは問題だ」
「それがですか」
「それこそがですか」
「それならば尾張に攻め入って来る」
　吉法師の言葉はここでも冷静だった。
「それが問題なのだ」
「今川は兵が多いですし」
「それも厄介ですな」
「確かに兵は多い」
　吉法師もそれは認めた。
「しかし今川には太源雪斎以外に将はいるか」
「むっ！？」
「将ですか」
「そうだ、いるか」
　このことを家臣達に問うのである。
「戦ができる将はいるか、今川には」
「いえ、雪斎以外にはです」
「これといっていません」
「一人たりともです」
「今川は元々駿河、そして遠江をまとめていてそれでやってきた」
「それは武によってではないと」
　坂井がそれに問うた。