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戦国異伝

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第二十一話 一喝その八


「よいな、頭を剃るのじゃ」
「出家せよというのですか」
「とにかく頭を剃れ」
 弟の問いに答えずまた言う彼だった。
「よいな。そしてじゃ」
「そしてとは」
「髪が生え剃ろうまでわしの前に出るな」
 これが今弟に告げる言葉だった。
「よいな、それまでじゃ」
「蟄居ですか」
「そうじゃ。そうしておれ」
 これが信長の弟に対する処罰であった。
「わかったな。それでどうじゃ」
「そうですな。それでよいのでは」
「頭を剃り蟄居」
「確かに勘十郎様は操られていました」
 家臣達も信長の今の言葉に頷く。
「しかし。操られていたのは勘十郎様に隙があったとも見えます」
「それではですな」
「その隙を見せてしまったことを処罰するということで」
「その様にですね」
「そうじゃ。これでよいな」
 信長もまた家臣達に述べる。
「では勘十郎よ」
「はい」
「清洲に戻れ」
 今度は再び弟に告げたのだった。
「よいな、そのうえで話をするぞ」
「話をですか」
「これからのことを話す」
 それでだというのである。
「わかったな。それではじゃ」
「はっ、では」
「爺、権六、新五郎」
 同時にこの三人にも声をかけた。
「そなた等も来い」
「我等もですか」
「それに」
「そうじゃ。牛助は兵達をまとめよ」
 信長の兵と信行の兵をだ。そうしろというのである。
「そのうえでこの下らぬ騒ぎを収めよ。よいな」
「わかりました」
 佐久間は主の言葉に謹厳な面持ちで頷いた。そうしてだ。信長は他の家臣達にもこう告げた。
「他の者はその牛助に従い兵を収めよ。よいな」
「はっ、それでは」
「今より」
「全てはこれで終わりじゃ」
 信長はまた話した。
「清洲に戻るぞ」
「結局一戦も交えませんでしたな」
「確かに」
 山内と堀尾がここで言う。
「覚悟していましたが」
「それはありませんでしたな」
「戦はですな」
「ですが」
「ふむ、わかっておるな」
 信長はその二人の言葉を聞いて面白そうな目をして述べた。
「そうよ。話はこれで終わりではない」
「といいますと」
「ここはまた」
「まあ見ておれ」
 これ以上は言わない信長だった。ただしだ。
 川尻に顔を向けてだ。まずは彼のその名を呼んだ。
「鎮吉」
「はっ」
「そなた、暫く清洲に詰めておれ」
「清洲にですな」
「そうよ。そなたにやってもらう」
 鋭い目でだ。こう彼に話すのであった。
「やってもらうことはわかるな」
「既に」
 わかっているとだ。川尻も答えてみせた。
「ではその時に」
「さて、それではじゃ」
「はい、清洲にですね」
「今から」
「皆戻るぞ。よいな」
 こうしてであった。信行の謀叛は一先終わった。そうしてそのうえで信長は清洲に戻った。するとであった。そこにいたのは。
「おお、よくやってくれたのう」
「いえ、私は何も」
 帰蝶はだ。微笑んで信長の言葉に応えるのだった。彼女はまだ具足と陣羽織を身に着けている。彼女はまだ清洲の正門のところにいたのだ。 
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