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戦国異伝

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第二十一話 一喝その一


                第二十一話  一喝
 信行の軍は清洲に達した。そのうえですぐに城を囲みだ。そうして今にも攻めんとしていた。
 しかしであった。足軽達の士気はであった。
「銭は貰ったけれどな」
「ああ。信長様と戦うのはな」
「どうもな」
「褒美は思いのままって言われてもな」
 それでもだとだ。彼等は口々に言っていく。
「あっちの軍にはわしの従弟がいるぞ」
「わしなんか弟がいるぞ」
「わしもじゃ」
 親戚同士、兄弟同士で敵味方に別れている者達も多かった。
「それで戦えと言われてもな」
「どうも気が引ける」
「あの城にしてもじゃ」
「そうじゃな」
 今取り囲んでいる清洲城を見てもであった。
「信長様の奥方がおられたな」
「帰蝶様じゃな」
「あの方がおられるのにだ」
「攻めてよいものか」
「全くじゃ」
 足軽達の士気が全く奮わない。しかもであった。
 戦うべき将もだ。いないのであった。
 柴田、林通勝、林通具の三人は後方にいたままだ。全く動かないのだった。
「信行様は相変わらずか」
「あのままか」
「その通りじゃ」
 柴田が早し兄弟に対して述べる。三人共実に暗い顔である。
「我等をここに置いたまま」
「津々木だけを置きか」
「そうじゃ。わし等はここにおれということよ」
 まさにそうだというのである。
「そうしておるわ」
「左様か。それではな」
「勝てる戦ではないな」
 元よりそのつもりはなくともだ。こう言う彼等であった。
「清洲の城は堅い」
「普通に攻めては陥とせぬ」
 それは彼等だからこそわかることだった。長い間戦の場において駆け回り清洲にもよく出入りしている彼等ならばこそである。しかしだ。
「だが。信行様はな」
「戦慣れしておられぬ」
 やはりこのことが大きかった。
「それにじゃ」
「戦に慣れた者を誰も用いられぬとは」
「それではじゃ」
「勝てる筈がない」
「その通りよ。考えてみれば妙じゃ」
 こう話す柴田であった。織田家で戦のこととなればやはり彼である。それで今こうして林兄弟に対して話すのである。その戦のことをだ。
「信行様は本来ならこうした場合はじゃ」
「そうじゃな。戦に慣れた者を用いられる」
「そしてその者達の話を聞く」
 信行は人の話を聞きそれを聞き分けられる者である。その為に家中において平手と共にまとめ役として重用されているのである。
 それがわかっているからこそだ。彼等は話すのであった。
「しかし今はじゃ」
「あの得体の知れぬ者の言葉じゃからのう」
「これではな」
「勝てる筈もない」
 こう話してだった。彼等はであった。
 軍の後ろでだ。ただいるだけであった。彼等は今はどうしようもなかった。
 しかしであった。信行はだ。津々木だけを傍に置いてだ。二人で話すのであった。
 彼等は本陣を敷きそこから清洲城を観ている。そうしてであった。
「さて、これからだな」
「はい、まずは清洲です」
 津々木が信行に対して述べていた。青い織田軍の鎧の中でだ。彼のものだけが漆黒、闇の色をしている。
 その彼がだ。信行に対して囁く様に言うのであった。
「そこからです」
「そうだな。清洲を奪いだ」
「そこを足がかりにしてです」
「尾張を全てわしのものとする」
 信行も言っていく。しかしその言葉は何処か虚ろである。
 目も何処か定まらずだ。言葉を出していくのであった。それは異様としか言いようのない姿であった。 
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