戦国異伝
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第二十話 信行謀叛その十一
「全く。爺に言葉を取られてしまったわ」
「これは失礼しました」
「しかしよい」
だがそれについてはだ。一切咎めないのであった。そうしてまた言う信長であった。
「全軍に伝えよ。水を飲めとな」
「はい、そして」
「水を飲んだ後は」
「大急ぎで清洲に戻す。よいな」
こう告げたのであった。
「道を走ってよ」
「駆けますか」
「まさに」
「そうよ。とにかく急ぐぞ」
強調していた。その急ぐことをだ。
「よいな」
「それでは。水を飲みすぐに」
「一気に参りましょう」
こうしてであった。信長は清洲に向かおうとする。しかしである。
木下が出て来てだ。こう言ってきたのである。
「殿、水はそれでいいのですが」
「むっ、猿か」
「はい」
信長の前に出て来て話してきた。
「飯もまた必要かと存じますが」
「ははは、それは無理だ」
信長は木下の今の言葉には顔を崩して笑った。そのうえでの言葉だった。
「流石に今飯は無理よ」
「さすればです」
木下はさらに言う。その言葉は。
「清洲に着いた時にです」
「その時にというのか」
「はい、そこにいる商人達に命じておいて飯を用意しておきましょう」
「ということはだ」
「はい、清洲に着けばすぐに飯を食えるように手配してはどうでしょうか」
これが彼の提案であった。
「どうでしょうか、それは」
「ふむ、そうだな」
それを聞いてだ。信長は頭の中で計算した。自分の考える速さで向かえばどれだけで尾張に着くのかをだ。それを頭の中で計ってから答えた。
「では今より早馬を出してだ」
「その陣の場所に飯を用意させましょう」
「わかった。ではそうするとしよう」
信長は木下の言葉を受けた。そのうえでだった。
周りにいる者達を目で見回してだ。こう告げたのであった。
「では今より一人向かえ」
「そうして手配をですね」
「そうよ。よいな」
「はっ、それでは」
早速小姓の一人が向かった。話がまた一つ動いた。
信長は命じた後でだ。あらためて木下を見てだ。こう言うのであった。
「猿、そなたどうやら中々頭が回るようだな」
「いえ、それがしはその様な」
「このことは覚えておく」
信長は謙遜する彼に対してまた告げた。
「よくな」
「有り難きお言葉」
「しかし。飯のことはわしも考えておらんかった」
実はだ。彼もそこまではなのだった。
「とりあえず清洲に着いてそこから攻めようと思っていたのだがな」
「わしはもう真っ先に敵を脅すつもりでしたが」
河尻が言ってきた。
「いや、まことに」
「鎮吉が普通じゃろうな、それは」
信長はここでは河尻がそれだと述べるのだった。
「しかし。その前に飯を食っておくと確かによいな」
「力が出ます」
今言ったのは坂井である。
「それだけで随分と」
「腹が減っては戦ができぬ」
信長はここでこの言葉を口にした。
「まことにそうよね」
「では。清洲に着きましたら」
「すぐに飯を食いですな」
「そのうえで」
「仕掛けるとしよう。よいな」
信長は最後にこう言ってであった。水を飲んだ。
それは家臣達も足軽達もだった。そうして。
信長は立ち上がった。一同を見回してから告げる。
「ではだ」
「はい」
「今より」
「全軍反転せよ」
こう命じたのであった。
「そして清洲に戻るぞ。大返しよ」
彼等はすぐに清洲に戻る。そうしてであった。また一つ困難を乗り越えるのであった。
第二十話 完
2010・12・22
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