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戦国異伝

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第二十話 信行謀叛その七


「見ていましょう」
「そうだな。それではだ」
「今は茶を飲み。そうして」
「見るとしよう」
「あの御仁を」
 彼等も彼等が率いる兵達もだ。全く動かなかった。義龍は己が掌握する兵だけを連れて稲葉山城を出た。そのうえで尾張との境に向かう。その途中でだった。
「浅井がか」
「はい、どうやら」
「越前の朝倉の援けを受けてです」
「六角とまた対しようとしています」
「どうされますか、それについては」
「浅井はよい」
 いいとだ。こう家臣達に告げるのだった。
「今はな。やはり織田だ」
「今攻めて来るとは」
「やはり油断できませんな」
 彼等はだ。織田が実際に来ると思っていた。それぞれ馬上において険しい顔になっている。
 その険しい顔でだ。こうも言うのであった。
「しかし来ればです」
「その時はです」
「容赦せずに討ち」
「そうして我等が逆に尾張を」
「その前にだ」
 だがここでだ。義龍は言うのであった。
「小牧山の城を陥とさなければな」
「あの城がありますか」
「そういえばですな」
「尾張には」
「あの城は容易なことでは抜けん」
 義龍はだ。このことがよくわかっていた。
「この程度の兵ではな」
「では今は」
「尾張にはですか」
「攻め入りませんか」
「織田が退けばそれでいい」
 こう言うのであった。
「それだけでは」
「わかりました。それではです」
「我等はです」
「織田が退けばそれで」
「帰りましょう」
「あの男、うつけのようだが」
 彼はまだ信長をそれであると思っていた。しかしなのだった。
 ここでだ。彼はこうも言うのであった。
「周りが賢いのか」
「織田の家臣達がですか」
「そうだというのですね」
「かなりの数の者達がいるそうだな」
 このことも既に知っている義龍だった。彼もまた愚かではない。だからこそだ。そうしたことまで調べて知っているのである。
 それを踏まえてだ。彼は今話すのだった。
「だからだ。今はだ」
「動かれませんか」
「そうされますか」
「今は」
「そうだ。動かない」
 それを決めているというのである。今の彼は。
「攻め入れば戦うがな」
「退けばそれでよし」
「左様ですな」
「では。よいな」
 義龍はあらためて己の家臣達に告げる。今の彼の下にある兵は一万である。その一万の兵でだ。信長の軍勢に向かうのであった。
「どうやらあ奴は父上から美濃を譲るとされたらしいがな」
「そう文で告げられたそうですね」
「それを大義名分にしています」
「そのうえでこの美濃を狙っています」
「厄介なことにです」
「大義か。それならわしにもある」
 義龍はだ。無意識のうちに負け惜しみめいたものを含ませていた。しかしそれでもだった。彼はその言葉を出さずにはいられないのだった。 
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