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戦国異伝

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第十七話 美濃の異変その五


「兵と農は分けております」
「何時でも戦えます」
「そう、田の刈り入れの時でもです」
「問題はありません」
「そういうことよ。兵と農はじゃ」
 信長もそのことについて述べるのだった。
「分けていけばよいのじゃ」
「百姓は戦に借り出される心配なく田畑に専念でき」
「兵は戦のことだけを考えて鍛え戦える」
「まさにそれですな」
「つまりは」
「左様、それでよいのじゃ」
 これが信長の考えだった。兵と農を分けたのには多くの理由があったのである。
 そしてだ。彼はこうも話した。
「とにかく尾張の兵はじゃ」
「弱いですな」
「それはどうにもなりません」
「兵が弱いといえばです」
 織田の代名詞だった。とにかく尾張の兵は弱いのだった。
 その他に弱い兵といえばだ。
「三好、北条、今川、毛利と並んでと言われますな」
「強いは上杉、武田、それに島津ですな」
「我等は薩摩隼人一人で住人はやられるとか」
「そこまでだとか」
「話にならんわ」
 信長は苦笑いで言い捨てた。その弱い己の兵達をだ。
「全くのう」
「その通りでござる」
「しかし兵を戦に専念させ鍛えさせることによってですな」
「それが大きく変わる」
「左様ですな」
「うむ、そうじゃ」
 頷いてみせる信長だった。
「これでかなり違うがのう」
「一万五千の兵が常に戦えるとなればですな」
「確かに全く違います」
「美濃にも向かえます」
「何時でも」
「そしてだ」
 信長はここでまた言う。
「美濃への密偵は増やしておけ」
「はい、わかっております」
「それについては既にです」
「大勢向けておりますので」
「御安心を」
「今のところ武田は動くまい」
 信長は彼等も見ていた。美濃の隣国信濃を領有している彼等をだ。そのことは忘れてはいなかったのだ。常に頭の中にあった。
「その信濃を治めるので忙しいからのう」
「そういえば武田は攻めるのは速いですが」
「その土地への政は時間をかけますな」
「それもかなり」
「それが甲斐の虎よ」
 信長はよくわかっていた。信玄のことをだ。
「武田は確かに戦に強い」
「しかしそれが真の目的ではない」
「そうなのですか」
「武田の最大の関心は政にある」
「手に入れた土地をどうして治めるか」
「それこそがなのですか」
「信玄殿の関心だと」
 家臣達も信玄についてこう話すとだった。ふと自分達の主のことを思い出すのだった。今彼等の目の前にいるその彼をである。
「まずは政があり」
「その為の戦ですか」
「やはり戦が主ではないのですね」
「そうじゃ。武田はあくまで政よ」
 信長はこのことを強調するのだった。 
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