戦国異伝
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第十四話 美濃の蝮その九
そのうえでだ。また言う彼だった。
「あのうつけと会う必要があるのか」
「久し振りに妹に会いたいとは思わぬのか」
「全く」
それはないという彼だった。
「思ったこともないわ」
「やれやれ、相変わらず仲が悪いのう」
「ふん、あ奴は昔からわしを馬鹿にしておる」
義龍は妹についてもだ。不満を見せていた。
そのうえでだ。帰蝶についても話した。
「何かと利発でじゃ。わしのことをな」
「それはそなたの気のせいだ」
道三は苦々しい顔になっている息子に対して話した。
「それは前から言っているな」
「そうは思えぬがな」
「しかしその通りだ。誰もそなたを馬鹿にしておらぬわ」
「父上もか」
きっとした顔になってだ。その道三を見てきたのだった。
「そう言えるのか」
「言えると言えばどうする」
「わしは父上の子ではないとも言われているがな」
「その話は気にするな」
顔は正面を向いたままだ。そのうえでの道三の今の言葉だった。
「全くな。気にするな」
「よく言えたものだな」
「言える。わかっているからだ」
「わしが父上の子ではないということがか」
道三は義龍の今の言葉にも顔を向けない。そのかわりだ。こう言うのだった。
「気にするな」
「またその言葉か」
「余計なことは考えなくていい」
「では余計なことを考えるとだ」
「何だ、それは」
「あのうつけに会いにわざわざ尾張とはな」
義龍はこのことにも忌々しげに話した。何かと彼にとって嫌な感情が常にその中に渦巻いているようである。そうした感じの言葉だった。
「尾張のうつけとな」
「うつけと思うか」
「それ以外の何だというのだ」
「さてな、若しかするとだ」
道三はだ。ここでも正面を見ながら話すのだった。
「うつけではなくだ」
「何だというのだ」
「大うつけかもな」
それだというのである。
「若しやな」
「大うつけなら余計に会う必要もないわ」
義龍は父の言葉にさらに忌々しげな口調になった。
「どうしてまた。物好きな」
「信玄や謙信も大うつけだったぞ」
道三は今度は彼等の名前を出してきた。
「違うか」
「では尾張のうつけもそれだというのか」
「かも知れぬ。まあ会ってみればわかる」
「わかるものか」
「人は会ってみぬとわからぬぞ」
「会わずともおおよその噂でわかるか」
「いや、わからぬ」
我が子にだ。今度は強く述べた道三だった。
「会ってもだ」
「会ってもか」
「それでも容易にわからぬ」
そういうものだというのである。
「中々な」
「人はそんなに難しいものなのか」
「難しいぞ。それがわからぬうちは駄目だ」
「そういえば殿」
ここでだ。周りの家臣の一人が道三に声をかけてきた。
「聞いた話によるとです」
「その大うつけのことじゃな」
「何でも多くの者をその下に集めているようですな」
「そうだな。かなりだというな」
「尾張の者達だけでなく」
それだけでなくというのだ。
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