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戦国異伝

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第十四話 美濃の蝮その二


「確かにのう」
「そう見られているのですね」
「うむ、その通りよ」
 こう妻に述べるのだった。
「それはどうだと思う」
「殿がそう思われているのならそうなのでありましょう」
「娘から見てはどうか」
「私も同じです」
 帰蝶はだ。その切れ長の強い光を放つ目で答えた。琥珀色の輝きを放つその目はだ。強くそれでいて澄んだ輝きであった。夜の中に輝く宝玉を思わせるものだった。
「それは」
「成程のう、やはりな」
「そして殿は」
「わしはか」
「その父上と比べてもです」 
 今度は己の夫を見てであった。その粗野に見えて整っているその顔をだ。
「遜色はない。いえ」
「いえ?」
「さらに上を行かれるかも知れませぬな」
「ふふふ、そう思うか」
「御自身ではどう思われますか」
「さてな」
 しかしだった。信長は不敵な笑みを浮かべてだ。こう言うだけだった。
「少なくともわしは尾張一国で終わるつもりはないがな」
「父上も同じことを仰っています」
「蝮もか」
「美濃だけではないと」
「では天下か」
「その為には尾張も手に入れておきたいと」
 ここでまた、だった。帰蝶の目が光った。
「そう仰っていました」
「それは何時の話だ」
「私がこの家に入る前です」
 その時だと。夫に対して話す。
「その時にです」
「面白いな、それはまた」
「面白いと仰いますか」
「左様、わしも同じことを考えているからだ」
 茶を飲みながらだ。また不敵な笑みになる信長だった。ここでも酒は飲まない。信長と酒は妻の前でも縁のないものであるのだ。
「尾張だけではなくだ」
「美濃もですか」
「さしあたって伊勢もだ」
 そこもだというのだった。
「伊勢と志摩も手に入れそのうえで都に向うつもりだ」
「その為に美濃をですか」
「この四国を合わせれば四万を超える兵が手に入る」
「そして豊かさもですね」
「尾張は元々豊かな国ぞ」
 そのことでも有名であるのだ。そして信長はその豊かな尾張を己の政においてさらに豊かにしているのである。それが今なのだ。
「それだけではなく他の三国も入れればだ」
「今川なぞ恐れるに足りませんか」
「今川か」
 その名前にだ。信長の目が光った。そのうえでの言葉だった。
「今川は今百万石だな」
「はい」
「この四国を合わせると百万石どころではないぞ」
「二百万国近いですね」
 これは実高である。言われている石高と実際の石高はかなり違っていることが多いのである。
「いえ、達しているのかも」
「尾張も今検地をして国人達を完全に取り込み」
 それにより実際の石高を確かめてだ。そうして国人達の領地も手中に入れて彼等を完全に臣下にしていっているのだ。これは寺社の領地にも及ぼうとしている。
「そのうえで実高も確かめているがだ」
「それを美濃や伊勢でもなのですね」
「わしの国になればそうしていく」
「そして都に」
「そのつもりだ。とにかく美濃は必要は」
 これはだというのだった。 
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