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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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若葉時代・火影編<前編>

 
前書き
原作沿い、というか原作情報沿い。 

 
「なぁ、この服ってやっぱり変じゃないか? オレに似合わないっていうか」
「そんな事ありませんよ。服の裾もたっぷりとしていて、これなら柱間様の体格を誤摩化すのにも有効ですし、大名様も随分と気の効いた物を送って下さいましたね」

 日課になった朝一番の身支度の際にミトへと声をかければ、似合っているのかいないのか判別し難い返事が返って来るのは最早恒例行事である。
 鏡の中の自分と睨めっこして鼻を鳴らせば、はしたないとミトに叩かれた。



「なんて言うか、火影になって変わったのって、書類の山の量だけじゃないかな? 前よりも増えた気がする」
「口を動かす暇があれば、手を動かして下さいませ」
「はーい、桃華」

 秘書の様な役割を務めてくれている桃華とのやり取りも恒例行事。
 流石に『火』と記された笠は外しているが、それでもゆったりとした火影装束は動き難い。この状態で戦って服の裾に躓きでもしたら、一生の恥になる事間違い無しだね。

 そんな阿呆な事を思いながら、目が痛くなる書類の山に視線を走らせる。
 陳情書から嘆願書、里の外での不審な影の動きや、世界各国の忍び一族の現在の動向まで。ありとあらゆる内容が記されている。

 その中の一つに、見逃す事の出来ない一文があった。

「――桃華。この書類だが……書かれている事は本当なのか?」
「少々お待ちください。ああ、これですか……」

 桃華の柳眉が顰められる。
 そうして後、やや緊張を帯びた声音が唇から発せられた。

「ええ。これは最近里を行き来していた行商人達が言っていたのですが……なんでも火の国と土の国の国境に尾獣の姿が目撃されたそうです」
「尾の数は?」
「四本……、つまり四尾です」

 今のところ私が顔を合わせたことのある尾獣は、九喇嘛と五尾に七尾の三体。
 暴れまわっていない時に顔を合わせて以来の九喇嘛と五尾と話して以来、私は彼らとの会話を恐れる必要はないと知っている。
 どうしよう、行ってみようか。上手くいけば穏便に話が通じるかもしれない。

「そういえば、土の国には木の葉の次に里が創設されたっけ? どうなっているの?」
「里としての形は未だに木の葉には及びませんが、あちらも各忍び一族同士の集合体としての機能は徐々に働き出しているそうです。土影も既に選出されたとか」

 しかし、と桃華が言葉を切る。

「そのためには少々四尾が彼らにとっての脅威になっておりまして……思うように話がついていないと予想されます」
「成程、ねぇ」

 そこを上手く突けば、話し合いの余地も生まれるかしら。
 間に小国を挟んでいるけど、近隣諸国同士で同盟を結ぶ事が可能になれば後々有利に働くよね。
 里の基盤が固まってからの戦争の発端は出来るだけ潰しておきたいし。

 ―――ーこれは好機だ。

「ねぇ、桃華。それってさ、火の国と土の国の境の話だよね?」
「柱間様?」

 不思議そうに首を捻っている彼女の前で徐に立ち上がれば、桃華の背筋がぴんと伸びる。
 採決済みの書類を手渡して、机の上に置いていた笠を被って外出スタイルになれば、桃華の眉が吊り上った。

「柱間様! お仕事はまだ……!」
「いいのいいの、自主休憩。桃華も休んでおいでよ」

 桃華が私の事を引き留めようとするが、彼女が手にしている書類が邪魔で素早く動けない。
 その隙間を練って悠々と出ていけば、背後の執務室から桃華の怒りの声が上がった。

*****

 慎重な手つきで差し出されたお盆。
 その上に乗せられた二枚の乾菓子に手を伸ばして、そっと口元にまで運ぶ。
 醤油の香ばしい香りに、菓子の上の粗い砂糖の粒が食欲をそそる。
 相好を崩したままそれを口に入れようとすれば、背後に殺気を感じて振り向いた。

「――や、マダラ。来るの早かったね」
「貴様、何故うちはの居住区にいる!?」

 憤然と怒鳴りながら、大股に近寄ってくるマダラ。
 ほとんど臨戦態勢なのか、黒い両目は既に写輪眼化している。
 肩で風を切りながらやってきたマダラは私の方を睨んでおり、周囲のうちはの人達と言えばハラハラとした表情で成り行きを見守っている。

「いや。ちょっと話があってさ」
「話だと?」

 座っていた横椅子を詰めて、隙間を作れば鼻を鳴らされるだけだ。
 じゃあ座んないのか、と思えばだいぶ離れて腰を下ろされる。結局何がしたかったんだ、こいつ。

「そう。土の国にちょっと出かけるから、一緒にいかない? かなり難しそうな任務もセットで付いているけど」
「任務、だと……? 貴様が難しいと言う程の?」
「うん。――ひょっとしたらだけど四尾と戦う事になると思う」

 さらりと言ってみたのだが、やっぱりそう簡単に流せる様な対象は無いらしい……尾獣は。
 マダラが軽く目を見張り、うちはの人達の何人かが顔を青ざめさせる。
 まあ、普通はそうなるよね。ましてや、彼らの中の何人かは以前に七尾と顔を合わせた事があるだろうし。

「四尾とやり合って、尚かつ生還出来る確率が高い忍びはオレを除けばお前と扉間くらいだし。――どうする?」
「オレが行かなければどうなる?」
「やっぱ、オレとミトと扉間のスリーマンセルだな。どのみちお前が留守番なのは間違いない」
「――――いいだろう、四尾であれば相手に不足はない」
「そう来なくちゃ」

 そのまま黙って干菓子を齧っていれば、マダラの視線を感じて、顔を横に向ける。
 赤い目をじっと見つめていれば、苛立った様に眉根が潜められる。毎度の事だけど眉間の間の皺……凄い事になってるよなぁ。

「始めて食べるけど、このうちは煎餅っておいしいな。今度差し入れしてくれない?」
「自分で買え、大戯け」

 冷たい返事に肩を落とせば、うちはの人達も気の毒に感じたのか、お土産にお煎餅を山ほど持たせてくれました。



 火影になってから数ヶ月後。木の葉が出来てからほぼ一年後。
 私とマダラ、それからミトを始めとする木の葉の忍び小隊は、この度土の国へと向けて出発する運びとなった。
 目指すは新設された岩隠れの里との同盟――ついでに四尾との一戦も覚悟しながら、大勢の人に見送られて私達は木の葉を旅立った。
 
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