戦国異伝
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第十三話 家臣達その五
「足利将軍家こそがそれです」
「幕府がですか」
「今日輪は曇っています」
幕府の今の散々な状況を嘆いてもいた。関東管領になった謙信はあらためて将軍家、そして幕府の権威の復興を強く意識するようになっていたのだ。
そうしたことがあってだ。今謙信はこう言うのであった。
「その曇りを取り払いそのうえで」
「闇を照らすのですが」
「それこそが私の役目です」
謙信の言葉が強くなった。
「上杉謙信のです」
「では謙信様」
「はい」
直江に顔を向けた。そのうえでの言葉だった。
「及ばずながら私も」
「力を貸してくれますか、この私に」
「無論です。私の全てを捧げましょう」
こう謙信に言った。
「この直江兼続の全てを」
「頼みますよ。既に私は二十五人の素晴しき者達の命を預かっています」
その二十五将である。謙信にとっては彼等こそが最高の剣であり友であるのだ。そう感じている、謙信はそういう男であった。
「そしてここで貴方も」
「それがしはかつて二十五将にしてもらいましたが」
「それは何故退いたのですか?」
「あの真田幸村ですが」
この男の名前を出すのだった。
「あの者は武田二十四将には入っておらぬのです」
「そうですね。あの若き虎は」
謙信もこのことは知っていた。既にだ。
「あの二十四の星達の中には入っていません」
「さすれば私もです」
「貴方もですか」
「あえて二十五将とはならず。そのうえで」
「あの男と戦いますか」
「運命を感じます」
直江はこうまで言った。
「あの男と川中島で会いそして剣を交えたことは」
「そうかも知れませんね。私達と同じです」
「私達とは」
「甲斐の虎です」
即ち信玄だというのだ。
「あの者と私もです」
「運命に導かれてですか」
「互いに戦う運命にあるのでしょう。さすればです」
「武田信玄と戦われますか」
「あれだけの強き者と出会えたこと、神々に感謝しています」
ここで神々と言ったのにも訳がある。日本の神々を見ているのだ。謙信はこの古来の神々のことも深く信じ敬っているのである。
その謙信がだ。神々に礼を述べつつさらに言うのであった。
「甲斐の虎と私は互いに全てを出し合い戦います」
「川中島において」
「そしてそのうえで虎を倒します」
そうするというのである。
「それが今の私の宿願の一つです」
「そうであるのですか」
「関東の相模の獅子もありやがて尾張の蛟龍とも剣を交えるでしょう」
「織田信長ですか」
「あの者、必ず天に昇ります」
龍としてというのだ。蛟は龍のまだ若い姿だとも言われている。それが長じればだ。龍になると言われている。信長はそれであるというのである。
「そうしてです」
「謙信様と剣を交えると」
「二匹の龍。私を黒き龍とすれば」
「織田は青き龍ですか」
「そのどちらの龍が生き残るか。それを見極めます」
こう言うのであった。そうしてだ。
「では直江」
「はい」
「貴方のその剣、確かに預かりました」
「有り難き御言葉」
「この天下に義を立てましょう」
「それが我が上杉ですね」
「そうです。ではその為にも」
月夜の下で直江を見て語っていく。そうして彼のその純粋な目を見ていた。そのうえで語るのであった。
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