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戦国異伝

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第百十話 切支丹その八


「宜しくお願いします」
「幼名は何じゃ」
「左介でございます」
「わかった。では左介よ」
 信長はその確かな笑みで古谷言っていく。
「その茶の他にも見せてもらうぞ」
「畏まりました、それでは」
「さて、また一人加わったわ」
 信長は二人の呼び名を決めると共に古田も家臣の一員に加えたことに満足して述べていく。
「よいことじゃ」
「いえ」
 だがここでその古田が不敵な笑みで言ってくる。
「まだですぞ」
「御主も誰か知っておるのか」
「近江の佐和山の方に面白い者がおりまして」
「面白い者とな
「左様です」
「誰じゃ、一体」
 信長は古田のその言葉に乗った。
 そのうえで彼に顔を向けてそれで問うたのである。
「近江の者というが」
「大谷吉継というのですが」
「その者の名なら聞いておる」
 信長も知っている名前だ、既に聞いている。
「噂じゃが相当な者だそうだな」
「そしてある寺に」
「寺に?」
「一人の小僧がいるのですが」
 古田はその小僧の話もする。
「いえ、もうそろそろ元服の歳なので坊主になるでしょうか」
「その若い坊主なり小僧なりもか」
「相当な切れ者でございまして」
「どの寺におるのじゃ」
 信長は貪欲にその僧侶の所在も古谷問うた。
「教えられるか」
「はい、観音寺でございます」
「観音寺か」
「その寺におります」
「わかった、観音寺じゃな」
 信長は古田から聞いたその寺の名前をあえて自分で繰り返して言ってそのうえで己の心に刻み込み覚えた。
 そのうえでこう言うのだった。
「ではまずその大谷を召し出そう」
「そうされますか」
「それから観音寺に向かう」
 その若い坊主に会うというのだ。
「そうするとしよう」
「そうされますか」
「では話は決まりじゃ」
 信長は確かな顔で微笑み述べた。
「人をさらに集めるぞ」
「天下の為にですな」
「無論じゃ。天下の為に人は多過ぎるということはない」
 実際に織田家は今の時点でも多くの家臣を擁しているが七百六十万石を治めるにはまだ不十分な状況なのだ。
 人手は幾らあっても足りない、だから信長は今もこう言うのだ。
「少しでも多くじゃ」
「人を集め」
「そしてやっていくとしよう」
「どうやら殿は噂以上の方ですな」
 古田は高山、中川達と共にいながら笑って述べた。
「実に貪欲な方ですな」
「銭にもおなごにもおのこにもそれ程ではないぞ」
「いや、人を集めることにでございます」
 それに大きな欲を見せているというのだ。
「噂では茶器を集めることにもそうだとか」
「ははは、茶器は確かに好きじゃ」
 馬術に水練に弓、それに鷹狩りに相撲に能と信長の趣味は多い。その中でも茶と茶器を集めることは格別である。
 それであちこちからとにかく名器を集めている、信長は名うての数奇者としても知られてきているのである。
 その数奇者として信長は今言うのだ。
「幾らでも集めたいのう」
「して、ですな」
「そうじゃ、人も国もじゃ」
 とかく貪欲だというのだ。
「欲しいのう」
「そして国を治めることにもまた」
「うむ、好きじゃ」
 つまり貪欲だというのだ。 
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