戦国異伝
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第十一話 激戦川中島その二
「何があろうともです」
「だから。わしに生きよと」
「はい、死ぬのは今ではありません」
幸村はまた言った。
「宜しいですな、では」
「・・・・・・そうだな」
そしてだった。山本も遂に頷いたのであった。
そのうえでだ。彼は幸村に対して言った。
「幸村よ」
「はい」
「そなたも生きよ」
「それがしもですか」
「そなた、高坂殿と並ぶ武田の宝となる」
今武田二十四将の中で最も若い一人として辣腕を振るう美貌の男である。その彼とであるというのだ。
「だからこそだ。生きよ」
「そう仰って頂けますか」
「そなたならば日之本一の男にもなれるかもな」
「ははは、それがしはその様なものは望んでおられませぬ」
幸村は顔を崩して笑って山本に返した。
「それがしが望まれるのはです」
「何だというのじゃ?」
「御館様の治められる天下です」
それだというのである。
「御館様によって治められ。平安となった天下をです」
「左様か」
「はい、その為にそれがしは戦います」
一点の曇りもない、何処までも純粋な笑顔であった。
「この戦場に」
「わかった。それではだ」
「はい、こちらへ」
こうして山本は幸村に救われたのであった。そしてである。
武田信繁の部隊にだ。今一人の男が向かっていた。
これまた精悍で若々しい顔をした男だ、引き締まった眉に口元、そして澄んだ目には一途な光がある。顔には贅肉が一片もない。そしてその身体もだ。引き締まりやや高い背にだ。実に合っていた。
上杉の黒い鎧兜にそれに馬、兜には愛の文字がある。その彼が今武田信繁こと吉田信繁に迫っていた。
彼はだ。今叫んだ。
「そこにいるのは吉田典厩殿であられるか!」
「だとすればどうするか!」
自ら刀を振るい左右の上杉兵を切り捨てていく吉田信繁が彼に返した。
「若武者よ、そなたの名を聞こう!」
「直江兼続!」
その若武者は名乗った。両手にそれぞれ剣を持ち黒馬に乗っている。二本の白刃だけが輝いている。その姿で向かってきているのだった。
「それがそれがしの名でござる!」
「そうか、御主がか」
吉田もその名前を聞いて頷いた。返り血は赤い鎧と陣羽織によって見えはしない。だがその刀は既に血に深く塗れてしまっている。
その刀を手にだ。吉田は馬上からだ。直江に向かおうとする。直江がその彼に言ってきた。
「武田晴信様の第一の弟殿の首、頂きに参りました」
「面白い、わしの首そうは安くはないぞ」
「元より承知のうえ」
直江も言葉を返す。
「それでは」
「参る!」
「いざ!」
二人は刃を交えようとした。しかしその時だった。
一騎の若武者がだ。そこに姿を現したのであった。
それはだ。幸村だった。彼はここにも姿を現したのであった。
「なっ、貴殿は」
「幸村か!」
「吉田様、お助けに参りました!」
二人の間に入って言うのであった。
「ここはお下がり下さい」
「馬鹿を言えわしはまだ」
「いえ、吉田様は既に多くの傷を受けておられます」
その吉田には背を向けて馬上にいる。だがそれでもわかるというのだ。
「それではこれ以上の戦は無理です」
「だからだというのか」
「はい、お下がり下さい」
また彼に告げた。
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