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戦国異伝

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第百七話 地球儀その九


「これは中々のう」
「では殿、ここは」
「利休を呼べ」 
 これが信長の返答だった。その顔には笑みさえある。
「そして共に茶室でじゃ」
「フロイス殿を交えてですか」
「会うぞ」
 実際にそうするというのだ。
「是非共な」
「そうされますか」
「よい茶を用意せねばな」
 信長はあからさまとさえ言える喜びも見せる。
「公卿の中でもとりわけ高貴な方々じゃしな」
「そうですな。しかし」
「しかし。何じゃ」
「山科様はともかく近衛様は」
 彼はどうかとだ。荒木は首を捻りながら述べる。
「いささかどうも軽い様な」
「それは言うでない」
 信長は荒木にそのことを言うのは止めた。
「よいな」
「畏まりました」
「むしろああした方が五摂家におられるということはじゃ」
「よいことですか」
「気取りがなくてよいではないか」
「確かに。そうも考えられますな」
「うむ。あれで気さくでよい方じゃ」
 悪人ではないというのだ。
「もう一方の山科殿もじゃ」
「あの方もですか」
「あれで裏表がない」
 公卿といえば陰謀の中に生き表はともかく裏では腹黒いことを考えていると思われる。だが二人はというのだ。
「よい方々じゃ。ただ」
「ただとは」
「全ての公卿の方がお二人の様だというとな」
「違いますか」
「うむ、違う」
 ここでは真面目な顔で言う信長だった。
「中には剣呑な方もおられる」
「陰謀を考える様な方が」
「やはりおられる」 
 そうした公卿もだというのだ。
「このことは注意しておくことじゃな」
「畏まりました」
「それでじゃが」
 信長は荒木にさらに言う。
「十二郎、御主も中々の数奇者の様じゃな」
「はい、実は」
 荒木もそのことを否定しない。信長にありのまま答える。
「茶器もまた」
「そうじゃな。しかしこの度の茶会は御主は呼べぬ」
「公卿のお二人に利休殿に」
「それにフロイスじゃ。これで茶室は窮屈になってしまうわ」
 茶室は狭いものだ。その狭い中に信長を入れて五人も入ればそれだけで一杯になってしまうというのだ。
「それでじゃ」
「ですか。それでは」
「また今度にしようぞ」
「ではその時には」
「御主が茶を淹れよ」
 信長は笑みに戻って荒木に告げた。
「よいな。楽しみにしておるぞ」
「さすれば」 
 こうした話をしてだった。信長は利休と交え二人の公卿とフロイスが会うことの橋渡しをすることになった。このことについて義昭は細川達にこんなことを言っていた。
 場所は仮の御所だ。そこにいてこう彼等に言う。
「信長も細かいのう」
「近衛様と山科様のことですか」
「そうじゃ。お二人を南蛮の坊主にか」
「会う場を用意されるとのことです」
「そうしたことまで信長はするのか」
「その様です」
 その通りだと答える細川だった。
「茶の席において」
「茶室でか」
「利休殿が茶を淹れられるとか」
「凝るのう。そこまでするか」
「いえ、それは」
 細川はそこまでせずともよいではないかという義昭の言葉に対して平伏しているが真面目な面持ちで顔を上げて述べた。 
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