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戦国異伝

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第百六話 二条城の普請その十三


「だからのう」
「ですな。闇討ちにすることも考えますが」
「止めておくしかない」
「殿が動かれぬならこそ」
「仕方がない。まあとにかく今はじゃ」
「はい、普請ですな」
「務めるとしようぞ」
 二人もまたこうした話をしながら普請を進めていた。そしてその普請の中で明らかにこの国の者ではない一団が都に来た。彼等は道行く人が行き交うその中にあってこう話していた。
「前にもこの都には来ましたが」
「前に来た時よりも栄えていますな」
「はい、確かに」
「町が賑やかになっております」
「よい感じですな」
 ただ活気が出て来ただけではなかった。店や家も多くなっている。
 そしてその町の中で赤茶色の縮れた髪に青い目の男がいた。彼は神父の服で痩せた身体を覆っている。
 その彼がこう周囲に言うのである。
「今この町が栄えている理由ですが」
「確か領主が交代したそうですね」
「将軍から別の者になったとか」
「そうなったとか」
「今ではかなりの領地を持つ領主だとか」
 彼等は彼等の基準から話していく。
「この国を治めんばかりの」
「言うならこの国の宰相になろうとしているとか」
「帝はいますから宰相ですな」
「将軍は言うなら宰相ですし」
「それならですね」
「その領主は宰相ですね」
「それになりますね」
「はい、なります」
 こう話していくのだった。そして。
 彼は厳かな声で周囲にこうも言った。
「是非その宰相にお会いしたいものです」
「この国の新たな主と言ってよい者」
「この国の実質的な統治者」
「その者とですか」
「お会いしたいですか」
「是非」
 赤い髪の男は微笑んでそうしたいと返す。
「このルイス=フロイス是非共」
「お会いしたいですか」
「その領主にですか」
「新たな宰相に」
「しかしです」
 だがここで一人の若い神父がこう言って来た。
「その領主が若しおかしな方なら」
「どうされるかですね」
「はい、どうされますか」
「どの様な方でもです」
 フロイスは穏やかではあるが確かな声で若い神父の問いに答えた。
「お会いしたいです」
「それでもですか」
「はい」
 フロイスはぶれない。何もかも。
「そして色々とお話がしたいです」
「ううむ、勇気がありますな」
「私の勇気はです」
 その勇気について微笑んで話すフロイスだった。
「それは信仰に基くものです」
「神への、ですね」
「はい、そうです」
 まさにそれに拠るものだというのだ。
「それがあるからこそです」
「勇気を持たれていますか」
「かつて多くの聖人達が神への信仰から勇気を手に入れています」
 これは聖書にもある。キリストにしてもそうだ。
「そして私もです」
「勇気を持たれそのうえで」
「その新しい宰相とお話をしましょう」
「わかました。それでは」
 若い神父も頷いて応える。そうした話をしながら彼等は最近都の中に入った。そうしてそのうえでその領主に文を送った。
 信長はその文を見てまずはこう言った。
「わからぬわ」
「文字がですか」
「これは何処の文字じゃ」
 こう文を持って来た村井に問う。
「南蛮の文字か」
「左様です」
「だからわからんのだな」
 信長は村井の話を聞いて納得した。
「そういうことじゃな」
「それではわかる者を連れてきましょうか」
「頼む、これではわからんわ」
「さすれば」
 村井もすぐに頷きそのうえですぐに然るべき者を連れて来た。そうしてその文の意味を理解してからまた言う信長だった。
「そういうことじゃな」
「おわかり頂けたでしょうか」
「おおよそはな。耶蘇教の坊主か神主か」
「神父というらしいですが」
「まあ坊主の類じゃな」
「そうなります」
「ふむ。坊主といっても色々じゃ」
 信長は己の席で腕を組んで言う。言いながら今いる本能寺を動き回るその僧侶達、彼がいる部屋の傍の廊下を通る彼等を見て述べた。
「真面目な者もおるがな」
「そうでない者もですな」
「そうした者も実に多い」
 こう言うのである。
「その耶蘇教の神父じゃったな」
「はい、そうです」
「その神父も色々であろう」
「やはりそうかと」
「そうじゃな。それでそのフロイスとやらじゃが」
「どうされますか、会われますか」
「話を聞いただけでは限度がある」
 ここでこう言う信長だった。
「どうしてもな」
「百聞は一見にしかずですな」
 信長の信条の一つだ。まず会うのが信長の人の見極め方だ。
「そうされますか、そのフロイスという者も」
「人を一人一人よく見れば見誤らぬ」
「今度は韓非子ですか」
「そうじゃ。だからこそじゃ」
 それでだと言う信長だった。
「その者に会うとしよう」
「さすれば」
 村井も信長の言葉に頷く。こうして信長はそのフロイスと会うことになった。これもまた彼にとって大きなことになるのだった。


第百六話   完


                            2012・9・11 
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