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戦国異伝

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第十話 信行の異変その七


「それが一番よい。しかしだ」
「しかし」
「何かありますか」
「あの男、素性がまるでわからぬ」
 信長が今言うのはこのことだった。
「不気味なまでにな」
「ではやはり」
「斬られますか」
「いや、少し泳がせておく」
 これが信長の判断だった。
「だからこそ勘十郎につけたのだ」
「そうだったのですか」
「それで」
「しかし目付は付けておく」
 このことも忘れていなかった。そうしてだった。
 柴田と林兄弟の三人を見てであった。
「権六、新五郎、六郎」
「はっ」
「それがし達がですね」
「そうじゃ。勘十郎の目付けとなれ」
 選んだのはこの三人であった。
「その方等は幼い頃よりわしに仕えてきた」
「そして信行様もです」
「見てきているからこそですね」
「その通りよ。そなた達三人に任せた」
 こう告げてであった。信長はさらに言うのであった。
「若しあ奴が兵をおこせばその時はだ」
「止めよと」
「我等が」
「いや、おこさせよ」
 信長の言葉は思いも寄らぬものだった。これには家臣一同が唖然となった。
「なっ、殿それでは」
「何にもなりませぬぞ」
 まずはその柴田と林が言った。
「兵をおこさせぬ為ではないのですか」
「我等を勘十郎様につけるのは」
「いや、おこさせねば話ははじまらぬ」
 しかしであった。信長の言葉は強い。決して戯言やそういったことで言っていないことはだ。このことからも明らかなことだった。
 だからこそだ。家臣達はその彼の言葉を聞くのであった。
「無論兵も置く」
「そのうえで、ですか」
「わざと兵をおこさせてですか」
「それからよ」
 信長はまた言ってみせた。
「実際に兵を率いるのは御主等になる」
「はい、確かに」
「勘十郎様は戦はあまり」
 これは信長と比べてである。信行は明らかに文、そして政に向いている人物である。その為信長も彼を一門衆の筆頭に置きそのうえで頼りとしているのである。
「そして柴田殿は織田家きっての武勇の持ち主」
「それに林殿とくれば」
 林はだ。その調略で知られている。戦の場においては信長を補佐し常に本陣にいる。
「勘十郎様が率いられるのはあくまで名目だけ」
「そうなりますな」
「だからだ。そなた等を付ける」
 また三人に告げた。
「それでじゃ。わしの軍と対峙したその時にだ」
「動く」
「そうすると」
「よいな、その時が来ればじゃ」
「はっ、畏まりました」
「ではその時に」
「動きます」
 三人は信長の言葉に頷いてみせた。そうしてであった。
 信長はだ。このことを強調してきたのであった。
「勘十郎が平素ならば謀反を起こすと思う者はいるか」
「いえ、まさか」
「それはありますまい」
「決して」
 家臣達の誰もその危険は感じてはいなかった。やはりこれも信行の人となりを知っているからこそだ。だからこそ言えることであった。 
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