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戦国異伝

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第百五話 岐阜に戻りその七


「そして家臣達もじゃ」
「どなたも用いられてですね」
「全力で戦う。さもなければ勝てぬ」
 本願寺はそこまで強いというのだ。
「門徒は死を恐れぬ。しかも鉄砲も多い」
「そういえば紀伊には」
「雑賀衆がおるな」
「はい、あの者達がですね」
「厄介じゃ」 
 そうした相手だというのだ。本願寺は。
「鉄砲は織田家も使っておるがな」
「本願寺もまた、ですね」
「何千丁と持っておるらしい」
「何千丁ですか」
「そうじゃ。三千はあるか」
 織田家より遥かに多かった。そこまでの数になると。
「本願寺全てになるとな」
「鉄砲といえば当家の他には島津家が知られていますね」
 帰蝶は九州の南端のその家の名前を出した。鉄砲は南蛮から伝わったが最初に日本に来たのは種子島だったのだ。そこは島津家の傘下の種子島家の領地なのだ。
 それで島津家は鉄砲を身に着けたのだ。その為その鉄砲の数も使い方もかなりのものになっているのだ。
 帰蝶はこの家の名前を出した。そしてだったのだ。
「そして紀伊の雑賀衆、その雑賀衆を傘下としている本願寺もまた」
「一向宗の一揆はただの一揆ではないのじゃ」
 普通一揆は飢饉等で食うに困った百姓が命賭けで行なうものだ。だが一向一揆は違うというのだ。
「あれは本願寺が攻める為に起こすもの」
「それで加賀も手に入れましたね」
「越前も苦しんでおる」
 朝倉家だ。朝倉家にとって最も厄介な相手になっている。
「あの宗滴殿がな」
「あの方もかなりのご高齢ですが」
「もう七十を超えておるな」
「八十に近いのでは」
「そこまでいくかのう。とにかくじゃ」
 宗滴もかなりの歳だ。このことは確かだった。
「それ故に。少しな」
「どうなるかわからないですか」
「うむ。一度お会いしたいのじゃがな」
「ですがそれは」
「織田と朝倉は犬猿の仲よ」
 元々斯波氏の家臣同士だが朝倉家の方が格上だったのだ。それで朝倉家は織田家を見下し織田家も朝倉家に劣等感を抱いてきたのだ。それは今になっても尚続いているのだ。
 それでだ。信長自身もこう言う。
「どうしても顔を会わせることはな」
「できませぬか」
「本音を言うとわしも朝倉は嫌いじゃ」
 それは信長も同じだった。
「特に主のな」
「義景殿は」
「気位ばかり高く都の遊びにばかりうつつを抜かしているという」
 もっぱらの評判だった。義景がそうした者だというのは。
「そしてあらゆることは宗滴殿に任せきりという」
「一族の長老でもあられるあの方に」
「それが主の為すことか」
 信長は顔を顰めさせて義景のことを批判する。
「それではとてもじゃ」
「主ではありませんか」
「一国の主の器ではないわ」 
 ぴしゃりと言い捨てた。こう。
「到底な」
「やはりそうですか」
「朝倉にも一応降る様に文を送るがな」
「聞き届けることはないですね」
「ある筈がない」
 降ることはないことはお互いが最もよくわかっていることだった。しかしそれでもあえて送ることが儀礼だった。だから信長もそうするのだ。
 それでだ。また言う信長だった。
「しかしそれでもじゃ」
「送られて断られれば」
「それで攻める口実になる。あの家とは雌雄を決しなければなるまい」
 その朝倉とだというのだ。 
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