戦国異伝
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第百五話 岐阜に戻りその二
都に邸は置いていない。義昭はそれを言うのだ。
「せめてそれ位は置くのじゃ」
「そのことですが」
信長は自分で義昭に応えた。暫く細川が話すに任せていたがここでまた自分の口から言ったのである。
「既に築きだしていますので」
「そういえばそうじゃったな」
「それに六波羅にはこれからも兵を置きます」
その長は信行だ。信長も都のことは忘れてはいない。
「これまで以上に」
「そうするか」
「そして公方様にです」
義昭自身にも話した。
「城を差し上げたいのですが」
「城をか」
「そうです。二条辺りに堅固な城を築きます」
こう言って義昭を自分の話に引き込んでいく。実際に義昭は信長の話に気付かぬうちに入り込もうとしていた。
「そこに入られてはどうでしょうか」
「ふむ。寺などではなくじゃな」
「寺なぞ比べものにならぬまでに堅固な城を築きます」
そしてそれを義昭に献上するというのだ。
「それでどうでしょうか」
「ふむ、わかった」
ここまで聞いてようやく義昭も静かになった。そのうえで言うことは。
「ではその様にせよ」
「そうして宜しいですか」
「そして何かあればすぐに都に参ずるのじゃ」
無論自分と都を守る為だ。その為以外の何でもない。
「よいな。そうせよ」
「そうさせてもらいます」
「しかし岐阜におるとじゃ」
義昭は岐阜に入って信長に上洛を要請した。だからこそその岐阜と都の距離を知っていた。それでこう言ったのである。
「都に来るまでに結構時間がかかるな」
「道は整えています」
「しかし一日では来れぬ」
普通に行けば三日だ。確かに時間がかかる。
「それでじゃ」
「ではどうせよと」
「今は仕方がないがより都に近い場所に拠城を置くのじゃ」
義昭は自分のことを考えてこう言った。しかしだ。
このことは信長の心に残った。それで言うのだった。
「わかっております。そのことは」
「ふむ。わかっておるか」
「その城もいずれ築きますので」
「では何処に築くのじゃ」
「近江か」
まずはこの国だった。
「それか摂津にでも」
「そのどちらに築くのじゃ」
「どちらにするか。それとも」
ここからは信長だけの言葉だった。義昭に述べてはいない。
そしてこう言うのだった。一人で。
「両方に築くか」
「とにかくじゃ。都にすぐに来られる場所にせよ」
「承知しております」
「ならばよいがな。して二条じゃな」
「左様です」
「ではそこに早く築くのじゃ」
義昭は信長を急かしもした。
「そしてじゃ」
「はい、公方様の御為に」
信長は義昭の言葉に静かに頷いた。そのうえでだった。
今度は信長からだ。こう義昭に言ったのである。
「して今度のことですが」
「褒美のことか」
「かなりのものを頂きましたが」
「どの役職でも好きに就任するがいい」
「いえ、前の時もそうでしたが」
「いらぬか」
「桐の御紋と二引両だけで」
いいというのだ。足利家の家紋を使えるということだけでだ。
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