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戦国異伝

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第百四話 鬼若子への文その一


                     第百四話  鬼若子への文
 信長は文を書かせた。その文は通具が書き信長は本陣においてその文を確かめていた。
 それが終わってからだ。信長はこうその書いた通具に述べた。
「六郎、いい文じゃ」
「有り難きお言葉」
 通具は信長の前で控えて頭を垂れる。
「ではその文を長曾我部の陣に送り」
「送る者は。そうじゃな」
 信長は荒木と秀長を見て述べた。家臣達も控えている。
「十二郎、小竹」
「はい」
「それがし達がですか」
「うむ。新五郎が主でじゃ」
 彼等は補佐だというのだ。
「それで行ってもらいたい」
「ではその様に」
「務めさせてもらいます」
 二人はすぐに応える。信長は林も見て言う。
「こうした時はやはりな」
「それがしだと仰って頂けますか」
「長曾我部も最早ただの豪族ではない」
 最初はそうだった。もっと言えば先代の国親の頃まではそうだった。長曾我部も土佐の一豪族に過ぎなかったのだ。
 しかし今では土佐一国を治めている。違っているというのだ。
「四十万石の家じゃからな」
「それがしが行って、ですな」
「御主か爺か勘十郎じゃな」
 織田家の重臣達の中でも格があり弁が立つ者達だった。それでだというのだ。
「勘十郎は少しじゃ」
「それがしは、ですか」
「うむ。わしの傍にいてもらいたい」
 今は傍に置くというのだ。
「都でのことをより聞きたい」
「あの黒い法衣の僧兵達のことでございますか」
「黒い、上杉の黒ともまた違っておったそうじゃな」
「明らかに違いました」
 信行もその通りだと答える。
「あの黒はどうも」
「違う黒か。上杉とは」
「上杉殿の黒は水です」
 五行思想で言うと北であり水を司る色だ。季節では冬になる。
「それは決して悪い色ではありまえぬ」
「そうじゃな。あの黒はな」
「しかしあの層兵達の黒はです」
 信行は顔を曇らせて兄に話す。
「また違いました」
「異様な黒じゃったか」
「あの男の黒に似ておりました」
 信行の顔がさらに曇る。そのうえでの言葉だった。
「闇に」
「闇か」
「夜ともまた違いました」
 夜の黒はまた別のものだ。水の黒とも違う。しかしあの層兵達の黒は夜の黒ともまた違ったというのである。
「不気味な黒でございました」
「ううむ。僧兵は黒の法衣を着るがのう」
 僧侶の法衣自体が黒である。
「それでもじゃ」
「闇の如き黒は」
「都に、いやこの国にそうした黒の法衣の者達がおるか」
 信長はこう信行に問い返す。
「果たしてな」
「それは」
「御主も見たことがないな」
「はい」
 あくまでそうした法衣の僧侶達はだ。信行も見たことがなかった。だからこそその眉を曇らせているのである。
「都のどの寺にも」
「僧兵を持っておるとなれば相当な寺じゃがな」
「その数はかなり多いものでした」
「五千はおったそうじゃな」
「間違いなくそれだけは」
「五千の僧兵を出せる寺か」
 信長は信行から数も聞き余計に考えて述べた。
 腕を組み真剣な顔で考え込みこう言ったのである。
「延暦寺ではないな」
「延暦寺に聞いてもです」
「知らぬと答えてきたか」
「その日延暦寺は都には出なかったそうです」
「そうか。流石にこうしたことではな」
 延暦寺も嘘を言わない。言っても何の意味もないからだ。 
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