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戦国異伝

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第百三話 鬼若子その十二


「よいか。道は開いておる」
「はい、確かに」
「それではですな」
 信長が開けさせた道だ。足軽達は今も左右に開いたままだ。それは川が左右に開いている姿そのままだった。
 その開いた川と川の間に長曾我部の軍勢と長可の騎馬隊がいる。その彼等の衝突今まさに迫ろうとしていた。
 その騎馬隊の先頭にいてだ。長可は馬で突き進みながら言うのだ。
「このまま進む。しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしとは」
「槍が来るぞ」
 先程まで好きなだけ暴れていた長曾我部の槍がだというのだ。
「あれがのう」
「ううむ、馬に槍となると」
「厄介ですぞ」
 騎馬武者達は顔を顰めさせて述べた。
「それが来るとなると」
「ここは」
「いや、やり方はある」 
 長可は冷静そのものの声で彼等に述べる。
「これはこれでな」
「といいますと一体」
「どうされるのですか?」
「こちらもやりの使い方はある」
 こう言うのだった。
「突く、叩く、それ以外のやり方がな」
「といいますとそれは?」
「どうやるのですか?」
「投げよ」
 そうせよというのだ。彼等が手にしている槍をだ。
「よいな。そうせよ」
「槍を投げるのですか」
「我等の持っている槍を」
「今はですか」
「そうじゃ。槍を投げるということはまずない」 
 少なくとも日本には殆どなかった。だから長可もこう言ったのである。
「しかしここはじゃ」
「投げますか」
「そうされますか」
「敵の思わぬやり方でいく」
 つまり虚を衝くというのだ。ここでもだ。
「そうするぞ」
「そうして勝ちますか、ここは」
「この戦は」
「うむ、弓でもよいがな」
 騎馬から弓を放つやり方はあった。源平の頃はそうして戦うことも多かった。戦国の世では今一つ廃れてはいるがだ。
 実際に織田の騎馬隊も弓は持っていない。だからこそ槍を使うのだった。
「ここは槍じゃ」
「はい、それでは」
「槍で」
 武者達も頷いてだった。それぞれ槍を利き腕に持ってそれから振り被る。そのうえで槍を投げる。しかしその投げられた長曾我部の軍勢は。
 その槍が投げられようとしているのを観た元親がこう告げた。
「散れ、すぐにじゃ」
「散る!?」
「散るのですか」
「それも思いきり後ろに下がってじゃ」
 そうしてだというのだ。
「思い切りな」
「しかし退くというのは」
「それは」
「よい。今はな」
 元親は退くのもよいとした。
「そうせよ」
「退いてそのうえで」
「散るのですか」
「さもなければ死ぬぞ」
 これまで突き進めとしか言っていなかった元親の話だ。
「よいな。ここは下がって散ってじゃ」
「助かれと」
「生きよと」
「死中に活あり、しかし死は避ける」
 だからだというのだ。 
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