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戦国異伝

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第百二話 三人衆降るその十二


 だからだ。ここではこう言うのだった。
「それを消してしまう方です」
「ううむ、殿はそこまでの方ですか」
「日輪があればこそ昼は輝きます」
「ですか」
「夜は夜で」
 それはどうかと。明智はこのことも話した。
「月がありますが」
「殿は夜には月になるでしょうか」
「そこまではわかりませぬが」
 明智は信長が月かどうかは答えられなかった。しかしだった。
 ここでだ。彼はこうも言ったのだった。
「ただ。織田殿は日輪です」
「だからこそその光で全てを」
「そうです。照らし出され闇を消される方です」
「戦国の世でなくなれば」
 どうなるかと。羽柴の言葉に感慨が入った。
「政で手柄を立てることに専念できますな」
「戦ではなく」
「できれば血が流れないに越したことはありませんな」
「はい、その通りです」
 このことは明智も同じ考えだった。
「戦は起これば多くの者が悲しみます」
「死ぬ者、迷惑を受ける者が出る故に」
 まさにそれ故にだというのだ。羽柴はさらに言う。
「起こらないに越したことはありませぬ」
「ですな。そういえば織田家で武といえば柴田殿と佐久間殿ですが」
「お二人も実は」
「戦は好まれない」
「嫌われてはいませぬが無闇に血を好む方々ではありませぬ」
「そうなのですか」
「特に権六殿は」
 柴田のことだ。織田家の中で攻めると言えば彼だ。佐久間が退く時に出るのに対して彼は攻めにおいて知られている。 
 その彼もだ。血についてはだというのだ。
「何もせぬ良民に刃を向けられることはありませぬ」
「そうしたことはされませぬか」
「織田家にはそうした方はおられませぬ」
「よいことですな」
「そう思います。では」
「はい、それではお考え下さい」
 織田家においてより精進することをだとだ。羽柴は明智に勧めた。明智も羽柴のそうした言葉を聞いてからこうしたことを述べた。
「どうやらそれがしが羽柴殿とは」
「それがしとは?」
「何かと気が合う様ですな」
「いやいや。それがしは只の猿顔の冠者」
 羽柴は自分自身のことは笑ってこう述べる。
「明智殿と釣り合う者ではありませぬ」
「いえ、決してそうではありませぬ」
「そうした者だと仰いますか」
「そう思います。羽柴殿はこれよりさらに大きくなられるかと」
「だと宜しいのですが」 
 そうした話を明るく話してだ。そうしながらだった。
 羽柴も明智も、織田家の十二万に達する軍勢と阿波と土佐の境に向かっていた。四国の趨勢を決める戦がはじまろうとしていた。


第百二話   完


                    2012・8・3 
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