戦国異伝
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第百二話 三人衆降るその九
「心でつながっているからこそです」
「実の子が生まれても」
「邪険してはなりませぬ」
明智は倫理から見て話す。
「決して」
「では養子であっても家督を継がせると決めば」
「それを破るべきではありませぬ」
明智は強い言葉で述べる。
「このことは必ずです」
「覚えておくべきですか」
「そう考えております」
「ですか。いや、勉強になります」
羽柴は笑って言った。
「まことに」
「ためになると」
「はい」
言葉を言い換えればそれになった。
「それがし学はありませぬので」
「学がない故にですか」
「色々学ぼうと考えております」
「それは何故でしょうか」
羽柴がそうする理由が気になりだ。明智は彼に問うた。
「身を立てられたいのですか」
「はい、だからです」
まさにだ。それが為だと答える羽柴だった。
「それがしが身を立てればそれだけ俸禄が増え」
「お母上が楽になりますか」
「しかも今は女房もおりますし」
もう一人増えていた。それが今の羽柴だった。
「ですから。身を立てたいのです」
「ご自身のことは」
「それもあります」
問われれば隠さなかった。羽柴は笑って答える。
「やはり贅沢はしたいですから」
「左様ですか」
「臼で挽いた米に」
これが羽柴の好物だった。彼は口にするものではとかく米が気に入っているのだ。その中でも特にこれが好きだったのだ。
「後は。飾った服に金ですな」
「そうしたものが欲しいですか」
「左様です。服や住む場所で贅沢がしたいですな」
羽柴はそうした己の好みを話していく。
「是非共」
「では。それがしも出来るだけ」
「出来るだけとは」
「羽柴殿が望まれるならお話させて頂きましょう」
「教えて下さいますか」
「知っている限りのことなら」
話しだ。羽柴が学ぶ助けになるというのだ。
「そうさせてもらいます」
「かたじけないですな」
「いえ、構いません」
「宜しいのですか」
「はい」
こう返すだけだった。明智はそうしたことには何の吝嗇もなかった。その礼儀正しさの中に鷹揚さも見せながらこうも言ったである。
「しかし。織田家は」
「織田家はといいますと」
「かなり。いい雰囲気ですな」
「そうですな。それは確かに」
「誰であろうが迎え入れられ」
そしてだった。
「取り立てられていきますか」
「百姓の倅のそれがしもです」
「今ではですか」
「こうして陣羽織を羽織っております」
陣羽織は即ち将の証だ。ほんの百姓の倅がそこまで取り立てられたというのだ。この織田家においては。
「誰でもそうなれる家でございますから」
「空気もよいのですな」
「お一人だけ非常におっかなく口五月蝿い方がおられますが」
「まさかそれは」
「はい、平手殿です」
織田家の筆頭家老でありご意見番でもある彼については羽柴も謙遜めいた口調でこう言うのだった。それは何故かというと彼の怖さを知っているからだ。
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