戦国異伝
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第百二話 三人衆降るその八
「出来ればどの娘も然るべき相手に嫁いでもらいたいです」
「ですな。我が子には幸せになってもらいたいですな」
「その通りですな。ところで」
「それがしのことでございますか」
「そうです。羽柴殿は御子は」
「おりませぬ」
羽柴はここでは少し悲しそうな顔になって述べた。
「どうも。それがしには縁のないことの様で」
「ご子息もご息女もですか」
「はい、どうやら」
自分の子供については縁がないというのだ。羽柴はかなり寂しそうな顔になってそれでこうも言うのだった。
「まことに一人は欲しいですが」
「ですか」
「子供というものは不思議なものでございますな」
「不思議とは」
「はい、望んでも得られぬものです」
それが子というものだというのだ。
「何人も授かる方もおられれば」
「ですな。それがしは娘には恵まれております」
明智のささやかな自慢でもある。
「幸いですな」
「そうですな。考えておるのは」
羽柴はここでこうも言う。
「妾等を何人も持ち」
「その妾達にですか」
「いや、ねねのことは第一ですぞ」
正室になる彼女はどうしてもだというのだ。
「しかし。やはり」
「御子は欲しいですか」
「心から。母上を養うことにもできました」
それが羽柴の第一の望みだった。そしてそれは果たされたというのだ。
「ならば後は」
「羽柴殿もお母君は」
「大事に思っています」
そうだというのだ。
「母親を粗末にするというのは」
「ですな。親は宝です」
それはだと言う明智だった。
「ですから例え何があろうとも」
「明智殿もかなりの親孝行だとか」
「それは当然のことですので」
特にだ。褒め称えられるものではないというのだ。
「ですから」
「宜しいですか」
「はい、そう考えております」
「確かに。それがしもです」
羽柴もだ。明智の言葉を聞いて笑顔で述べた。
「母上を大事に思うのは自然ですな」
「その通りですな。しかし人とは欲深いもので」
羽柴はその猿顔を綻ばせて話す。
「母上の笑顔が見られれば」
「その次はとなると」
「子が欲しくなりました」
母の卯木はそれだというのだ。
「そう思っていますが」
「それでもですか」
「はい、これが中々」
また困った顔になって言う羽柴だった。
「どうしたものでしょうか」
「これだけはまことに縁でございますからな」
「はい、困ったことです」
こうした話をしてだった。羽柴は明智に今度はこんなことを言ったのだった。
「まあ。養子も考えております」
「養子ですか」
「子が出来ぬなら仕方ありませぬ」
「それは確かにそうですが」
だがそれでもだとだ。明智はここでこう羽柴に言った。
「養子は養子ではありませぬ」
「といいますと」
「はい、実の子が生まれてもです」
それでもだというのだ。
「養子の方は紛れもなく羽柴殿の御子です」
「そうして育てよというのですな」
「はい、血ではなく心です」
それでつながっていればだというのだ。
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